論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

9月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

食道癌または食道胃接合部癌に対する術前放射線化学療法

Van Hagen, P, et al., N Engl J Med, 2012 ; 366(22) : 2074-2084

 食道癌は術前に適切なステージングが行われても25%に顕微鏡的残存腫瘍が認められ(R1)、5年生存率は40%を超えることがほとんどない。食道癌の術前補助化学放射線療法(CRT)の役割については数十年にわたり議論されており、メタアナリシスではその生存へのベネフィットを示唆するものの、術後の合併症や死亡の頻度が高く、確立されていない。著者らは、以前にcarboplatin (CBDCA)とpaclitaxel (PTX)を用いた術前CRTの第II相試験を行い、このレジメンは全例にR0切除をもたらし、安全性にも優れるという結果を得ている。そこで、治癒可能な食道癌または食道胃接合部癌患者に対する術前CRTと手術単独療法との多施設共同第III相ランダム化比較試験を実施した。
 対象は、18〜75歳、WHOのPS≦2の組織学的に扁平上皮癌、腺癌、未分化大細胞癌と確認された治癒可能な食道または食道胃接合部の患者で、UICCのTMN分類で臨床ステージT1N1またはT2-3N0-1、M0を適格とした。対象患者はCRT+手術群(CRT群)または手術単独療法群(S群)にランダム化割り付けされた。
 CRT群にはCBDCA AUC 2 mg/mL/分とPTX 50 mg/m2をday1、8、15、22、29に静注し、総線量41.4 Gyの外部照射(23分割で1回1.8Gy週5日)を行った。手術はCRT終了後4〜6週に実施した。S群にはランダム化後できるだけ早い時期に手術を行った。
 主要評価項目はOSで、その他の結果はすべて副次評価項目とした。 2004年3月〜2008年12月に登録された368例中CRT群178名(年齢中央値60歳、男性75%、腺癌75%)S群188名(60歳、81%、75%)を解析対象とした。生存例の追跡期間の中央値は45.4ヵ月である。
 CRT群168名(94%)、S群186名(99%)に手術が施行されたが、それぞれ7名(4%)、25名(13%)が手術中に原発腫瘍またはリンパ節が切除不能と診断された。
 切除術を受けたCRT群161名、S群161名のうちR0を達成したのはそれぞれ148名(92%)、111名(69%)であった(P<0.001)。病理学的CR(ypT0N0)はCRT群の29%で得られた。切除標本のうち1つ以上のリンパ節で転移陽性であったのはCRT群31%に対しS群75%であった(P<0.001)。
 切除術を受け退院した後に、CRT群61名、S群83名が死亡したが、CRT群85%、S群94%が再発を死因としていた。
 切除術を受けた患者のDFSの中央値はCRT群は到達せず、S群では24.2ヵ月であった(HR 0.498、95%CI 0.357-0.693、P<0.001)。
 OSの中央値(intention-to-treat)はCRT群49.4ヵ月、S群24.0ヵ月でCRT群が有意に優れていた(HR 0.657、95%CI 0.495-0.871、P=0.003)。1年、3年、5年生存率はCRT群が82%、58%、47%、S群では70%、44%、34%と、治療前の予後因子で補正してもCRT群の優位は変わらなかった。
 安全性の評価をCRT群171名、S群186名で行った。術後の有害事象は肺合併症がCRT群46%、S群44%、心合併症21%、17%、乳糜胸10%、6%、縫合不全22%、30%、在院死亡は両群とも4%であった。
 CRT群でのグレード3以上の有害事象で、血液毒性では白血球減少症が6%、、非血液毒性では食欲不振が5%ともっとも多かった。
 以上のように、治癒可能な食道癌または食道胃接合部癌患者に対する5コースのCBDCA+PTXと 41.4 Gyの放射線療法による術前補助CRTは、手術単独療法に比べてOSとDFSを有意に改善した。また本法は安全で外来での実施が可能であった。

監訳者コメント

外来実施可能な有効な術前化学放射線療法が期待される

 本邦では2008年に公表されたJCOG9907試験(臨床病期II、III期胸部食道扁平上皮癌に対するCDDP+5-FUの術前対術後補助化学療法のランダム化比較試験)の結果より、放射線照射を行わない術前化学療法が標準治療となっている。一方欧米では、切除可能な食道癌または食道胃接合部癌に対して術前化学療法では腫瘍縮小効果が低いとして、基本的にはCDDP+5-FUの化学療法と総線量40〜50.4 Gyの放射線照射を行う術前化学放射療法が、確固たる第III相試験の結論が出ないまま、現在では標準治療とされている。
 本試験は、CBDCA+PTXという通常は進行非小細胞肺癌に対して行われている化学療法に41.4 Gyの放射線照射を加えた外来での実施可能な術前CRT群と手術単独のS群のランダム化比較試験である。CRT群はS群と比較して化学放射線療法の重篤な有害事象もなく、術後合併症および治療関連死亡はほぼ同等で、OS、DFSともに良好な治療成績を示した。
 今回の報告によりCBDCA、PTXのみならず、外来での実施が可能である有効な術前化学放射線療法の開発が行われていくと推測される。

監訳・コメント 国立がん研究センター中央病院 井垣 弘康(食道外科・外来・病棟医長)

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