論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

進行胃癌に対するfirst-line治療としてのbevacizumab+化学療法:第III相プラセボ対照二重盲検無作為化比較試験

Ohtsu A. et al., J Clin Oncol. 2011; 29(30): 3968-3976

 Bevacizumabは腫瘍の血管新生に重要な役割を果たすVEGF-Aを標的とするモノクローナル抗体であり、化学療法との併用にて大腸癌、乳癌、肺癌、膠芽腫などの悪性腫瘍に対する有効性が臨床試験で示されている。胃癌患者ではVEGF発現が予後不良などと関連しており、遠隔転移を有する胃腺癌および食道胃接合部腺癌患者に対しbevacizumab+プラチナ製剤を含む化学療法を用いた第II相試験においても、有望な結果が報告されている。このようなbevacizumabの作用と試験成績に基づき、AVAGASTでは進行胃癌のfirst-line化学療法としてbevacizumabと2剤(CDDP+capecitabineまたは5-FU)を併用し、その有用性を無作為化比較試験で検討した。本稿では、AVAGASTにおいて示された有効性および安全性解析を報告する。
 対象は18歳以上、未治療の切除不能な局所進行または転移胃腺癌または食道胃接合部腺癌患者でECOG PS 0〜2、余命3ヵ月以上の者とした(標的病変の有無は問わないがRECIST 1.0で評価可能、補助化学療法は無作為化の6ヵ月以上前、また手術・放射線療法は無作為化の28日以上前に完了していれば許容、プラチナ製剤投与歴または抗血管新生療法歴は不適格)。
 2007年9月〜2008年12月に17ヵ国93施設より登録された774例がbevacizumab群(B群、387例:年齢中央値58歳、男性257例)またはプラセボ群(P群、387例:59歳、258例)に無作為に割り付けられた。B群にはbevacizumabを、P群にはプラセボを7.5 mg/kg(初回は30分、インフュージョンリアクションが認められなければ次回からは15分で静注)、続けてCDDP 80 mg/m2をday 1に、capecitabine 1,000 mg/m2を1日2回、14日間経口投与した。治療は3週ごと、CDDPは6コース、bevacizumabとcapecitabineはPDもしくは忍容しがたい毒性をみるまで投与。経口投与が困難な患者にはcapecitabineのかわりに5-FU 800 mg/m2/dayをday 1〜5に静注した(試験中のcapecitabineから5-FUへの変更は不可)。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効率、安全性とした。
 平均治療期間はB群6.8(±5.1)ヵ月、P群5.8(±4.9)ヵ月、追跡期間中央値は各11.4ヵ月、9.4ヵ月であった。
 OS中央値はB群12.1ヵ月に対しP群10.1ヵ月で有意差は認められなかった(HR 0.87、95%CI 0.73〜1.03、p=0.1002。死亡リスクはB群で13%低下)が、1年OSは50.2%vs 42.3%でB群が有意に優れていた(p=0.0301)。
 PFS中央値は6.7ヵ月vs 5.3ヵ月でB群で有意な延長がみられた(HR 0.80、95%CI 0.68〜0.93、p=0.0037)。奏効率はB群46.0%(CR 1.6%、PR 44.4%)、P群37.4%(CR 1.0%、PR 36.4%)でB群が有意に優れていた(p=0.0315)。SDは29.9%vs 30.3%であった。
 患者の49%はアジア太平洋地域(うち90%は日本と韓国)、32%は欧州、19%は汎米地域で登録されたが、サブグループ解析では、アジアに比べ汎米および欧州の患者でベネフィットが大きかった。
 安全性の評価可能767例(B群386例、P群381例)中、グレード3〜5の有害事象はB群76%、P群77%に認められた。うち各66%、64%は治療関連であった。両群とも好中球減少(B群35%、P群37%)、貧血(10%、14%)、食欲不振(8%、11%)、悪心(7%、10%)が高頻度にみられた。しかし化学療法によって生じる有害事象以外にbevacizumabによる新たな有害事象が認められることはなかった。
 本試験では化学療法単独のOS中央値10.0ヵ月をbevacizumab併用により12.8ヵ月に延長し、死亡リスクを22%低下(HR 0.78)させる仮説(主目的)は達成できなかったものの、PFS、1年OS、奏効率は全てP群に比べB群で有意に優れていた。またbevacizumabに関連する新たな毒性は認められず、短時間での静注の安全性が確認された。以上のことから、bevacizumab+化学療法は進行胃癌のfirst-line治療として臨床効果を示すものと考えられた。今後はバイオマーカーを解析することにより、どの患者がbevacizumabのベネフィットを得られるかなどを明らかにしていく必要がある。

監訳者コメント

胃癌における分子標的薬と個別化治療

 胃癌は未だに世界的にも頻度の高い癌であるが、生物学的特性は均一ではなく、また標準治療も地域により異なっている。ToGA試験でHER2陽性胃癌において初めて分子標的薬の有効性が示され、AVAGASTにおいてもVEGFを標的としたbevacizumabの併用効果が期待されたが主要評価項目(effectiveness)は達成されなかった。しかしながらPFSの延長や奏効率の改善に関しては有意な結果となり、臨床的効果(efficacy)と考えられる。両試験の大きな違いは、前者はすでに確立したバイオマーカーであるHER2陽性の約2割の患者が選択され(腸型が約75%)、後者ではそのような選択はなかった。計画されたサブ解析では地域以外に、Nは少ないもののToGAとは逆にlocally advancedやnonmeasurableに対してリスク低下が大きい傾向であった。OSで差がなかった要因としては、1. 地域別の2次治療移行率が異なること、2. 組織型の割合が異なる点、3. Bevacizumabのdose等が示唆されているが、今後はpVEGF-A等のバイオマーカーを組み入れた新たな試験が早急に望まれる。

監訳・コメント:神奈川県立がんセンター 円谷 彰(消化器外科・部長)

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