論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

切除可能な食道胃腺癌に対する周術期化学療法 vs 手術単独療法:FNCLCCおよびFFCD主導の多施設共同第III相試験

Ychou M et al., J Clin Oncol. 2011; 29(13): 1715-1721

 遠隔転移のない癌の治療は手術が中心であるが、R0切除例であっても大半で再発を認める。術前化学療法は、食道胃接合部癌に対して様々な利点をもたらす。著者らも1994年に、局所進行胃腺癌に対し5-FU持続静注+CDDP bolus投与による術前化学療法の第II相試験を実施し、R0切除実施率77%で生存期間中央値16ヵ月という成績を得た。そこで、切除可能食道胃腺癌に対する5-FU+CDDPを用いた周術期化学療法と手術単独療法に関する第III相オープンラベル無作為化比較試験を行い、生存成績、治癒的切除率、忍容性を比較検討した。 対象は、治癒的切除が可能な下部食道、食道胃接合部、胃腺癌患者で、18〜75歳、WHOのPS 0〜1の者とした(試験開始当初は下部食道癌と食道胃接合部癌患者のみを適格としていたが、1998年に適格基準を拡大し、胃腺癌患者を含めることとした)。上皮内癌、腺癌以外の癌、化学療法歴・放射線療法歴を有する場合は除外した。登録期間は1995年11月〜2003年12月、追跡期間の中央値は5.7年である。
 対象患者224例はCS群(113例)とS群(111例)に無作為に割り付け、CS群には術前に5-FU 800 mg/m2/day(持続静注、day 1〜5)+CDDP 100 mg/m2(1時間で静注)を28日ごとに2〜3コース、術前化学療法で忍容性が優れ、治療後にPDが認められなかった症例には術後も3〜4コース、計6コース実施した。
 主要評価項目は無作為化後のOS、副次評価項目は無病生存率(DFS)、R0切除率、安全性とした。
 年齢中央値は各群63歳、男性はCS群96例、S群91例、腫瘍部位は食道胃接合部が多かった(CS群70例[62%]、S群74例[67%])。
 CS群では4例が術前化学療法を受けなかった。化学療法を受けた109例のうち、グレード3/4の副作用は38%に発現した。最も頻度の高いグレード3/4の副作用は好中球減少(20.2%)であった。また、4例を除く109例に手術を行ったが、手術を行わなかった理由としては、1例が治療関連死、3例がPDである。S群ではPD 1例を除く110例で手術が行われた。無作為化から手術までの日数中央値はCS群78日、S群13日であった。
 R0切除率はCS群84%、S群74%でCS群が有意に高かった(p=0.04)。
 術後合併症発症率はCS群25.7%、S群19.1%で有意差なし、術後30日以内の死亡率も4.6% vs 4.5%で有意差はなかった。
 CS群で術前化学療法を1コース以上受けた109例中54例(50%)が術後化学療法を受けた。プロトコル違反として、S群の3例(3%)が術後化学療法を受け、両群で12例(S群の5%とCS群の6%)が術後放射線療法を受けた。
 OSは5年OSが38% vs 24%でCS群の方が有意に優れ(死亡のHR 0.69、95%CI 0.50-0.95、p=0.02)、DFSも、5年DFS 34% vs 19%でCS群が有意に優れていた(再発または死亡のHR 0.65、95%CI 0.48-0.89、p=0.003)。
 多変量解析を行ったところ、OSの有意な予後因子は術前化学療法実施(p=0.01)と腫瘍部位(p<0.01)であった。
 以上のように、食道腺癌、食道胃接合部腺癌、および胃腺癌において、5-FU+CDDPによる周術期化学療法は手術単独療法に比較して治癒的切除率を改善した。またOSとDFSも周術期化学療法群が有意に優れていた。本試験の結果は胃癌に関するMAGIC試験、および食道癌に関するメタアナリシスの結果とも一致しており、切除可能食道胃腺癌の管理において周術期化学療法がレベルAの標準療法として用いられることを支持するものである。

監訳者コメント

切除可能食道胃接合部腺癌は周術期化学療法が標準治療となるか?

 フランスから報告された、切除可能な下部食道、食道胃接合部、胃腺癌に対する周術期化学療法の有用性を示した論文である。2006年に報告されたMAGIC試験に類似しているが、いくつかの相違点がある。併用する化学療法はepirubicinを含まずCDDP+5-FUで、CDDPの投与量の差はあるが日本の食道癌の化学療法とほぼ同様の治療である。腫瘍の局在は、MAGIC試験では、下部食道14%、食道胃接合部12%、胃74%に対し、今回の試験では、下部食道11%、食道胃接合部64%、胃25%、手術術式は、MAGIC試験では食道切除が24%に対し今回の試験では49%と、MAGIC試験は胃癌を主にした試験であるのに対し今回の試験は食道胃接合部癌を主にした試験である。今回の試験は症例全体では周術期化学療法併用群で有意にOSの延長を認めたが、腫瘍の局在別に解析すると、食道胃接合部癌だけが化学療法の効果があり、下部食道癌、胃癌では症例数が少ないためもあるが、明らかな効果が認められなかった(Appendix Fig A1,online only)。
 今回の問題点は、術前化学療法を行った患者の50%が術後化学療法を受けているので、術前化学療法の効果がどれほどあるか、また術後化学療法が必要かどうか正確に評価できない。また術後化学療法を規定の3コース以上行えた症例は38%しかいないので、術後化学療法のあり方について課題が残る。
 食道胃接合部癌は日本では、食道外科医、胃外科医で手術術式自体が異なることが多く、化学療法もCDDP+5-FUとTS-1+CDDPと統一されていない。日本では食道胃接合部癌は単一施設では症例数はきわめて少ないので、食道外科医と胃外科医が協力して多施設共同で、手術術式、化学療法についての臨床試験を行う必要がある。

監訳・コメント:名古屋大学医学部 深谷 昌秀(腫瘍外科・助教)

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