論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

局所進行胃癌および食道胃接合部癌に対する術前化学療法と手術単独療法の比較:European Organisation for Research and Treatment of Cancer Randomized Trial 40954

Schuhmacher C, et al., J Clin Oncol. 2010; 28(35): 5210-5218

 局所進行胃癌は術前および術後化学療法の併用によりベネフィットが得られるものの、術後補助化学療法は効果があまり高くなく、受けられる症例も多くはない。そこで術前化学療法のみの実施に注目が集まる。本試験は術前化学療法の有用性を検討した第III相無作為化試験である。
 対象は18〜70歳、WHOのPS 0〜1、UICC(International Union Against Cancer)のIII期およびIV期(cM0)局所進行胃癌(Siewert分類のtype I・II食道胃接合部癌を含む)患者144例とし、これを術前化学療法+手術療法(N群、72例)または手術単独療法(S群、72例)に無作為に割り付けた。N群には術前にCDDP 50mg/m2 (day1,15,29)、d-L-folinic acid 500 mg/m2および5-FU 2,000mg/m2 (day1,8,15,22,29,36)を48日ごとに2コース投与した。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はR0切除率、PFS、術前化学療法中の副作用、術後合併症率、原発巣および転移リンパ節に対する化学療法の影響である。
 なお、登録は1999年7月から開始したが目標登録数の40%にしか達せず、2004年2月に登録を打ち切った。また生存期間の改善を検出するには282イベントを要したが、2007年6月の解析時までに死亡は67例と少なく、統計学的検出力不足は否めないが、以下に主な解析結果を示す。全例の追跡期間の中央値は4.4年(N群4.7年、S群4.1年)である。
 年齢中央値はN群56歳、S群58歳、男性は両群とも69.4%、原発腫瘍部位はN群51.4%、S群54.2%(全例で52.8%)が胃上部3分の1の腫瘍であった。
 術後、N群の65.7%、S群の50%は原発腫瘍がpT0/1/2に分類され、術後の腫瘍径はN群のほうが縮小する傾向にあった。
 N群では69例が化学療法と手術の両方を受け、切除は70例で行われた。S群は68例が切除を受けた。術前化学療法を受けた69例の奏効率は36.2%(CR 5.8%、PR 30.4%)であった。
 術中判断による完全切除は両群それぞれ72例中63例で実施され、病理学的R0切除率はN群81.9%(n=59)、S群66.7%(n=48)とN群のほうが高かった(p=0.036)。郭清リンパ節数はN群31、S群33(中央値)とほぼ同数であったが、転移リンパ節を有する症例はN群52例(76.5%)、S群43例(61.4%)とS群のほうが有意に多かった(p=0.018)。転移陽性リンパ節数(中央値)はN群1、S群6で、N群の58.6%、S群の33.8%ではリンパ管侵襲 (ly)はみられなかった(p=0.01)。
 死亡はN群32例、S群35例で、うちPDを死因とするものは各24例、33例であった。術後合併症発症率はN群27.1%、S群16.2%とN群が高い傾向にあり(p=0.09)、これによる死亡がN群3例、S群1例に認められた。 生存期間の中央値はN群64.62ヵ月、S群52.53ヵ月であるが、統計学的検出力不足のため信頼しうる数字ではない。2年生存率はN群72.7%、S群69.9%であった。生存のハザード比(N群 vs S群)は0.84(95%CI 0.52-1.35)、PFSのハザード比は0.76(イベント数S群44 vs N群40、95%CI 0.49-1.16)と、ともに有意差は認められなかった。
 本試験では術前化学療法によりR0切除率が高くなることは示されたが、延命効果については手術単独療法との差を明らかにすることはできなかった。これは、ひとつには統計学的検出力が低かったこと、また食道胃接合部癌を含む上部癌が多かったこと、D2リンパ節郭清率が高かったことなどが原因であると思われる。今後の試験は、正確なステージ分類、十分なD2リンパ節郭清に注意して実施されるべきであると考える。

監訳者コメント

臨床試験以外で安易に術前化学療法を行うことに警鐘を鳴らす

 Clinical T3/T4胃癌に対して術前化学療法を行い予後の改善を図ることが、良質な手術(D2リンパ節郭清率94.2%、術後合併症発生率21.7%)が行われた場合には、容易ではないことを示した論文である。ACTS-GCの結果を受けてStage III (第13版胃癌取扱い規約)胃癌に対しては、術後のS-1投与以外に何らかの治療を付加することで治療成績の改善が得られる余地があると考えられており、その治療選択肢の一つとして術前の化学療法がある。その論拠として、MAGIC 試験やACCORD-07試験において術前化学療法施行群の予後が手術単独群に比較して有意に改善したことが挙げられる。
 両試験の術前の進行度を本論文の対象の術前の進行度と比較すると、進行度が低い症例が本試験で若干多いことが推察されるが、手術単独群における5年生存率はMAGIC 試験で23%、ACCORD-07試験で17%、本論文で約48%となっており、本論文のようにD2リンパ節郭清が高い頻度でなされれば手術単独群の予後が大きく改善することが示された。一方、術前化学療法群の5年生存率はMAGIC 試験で36%、ACCORD-07試験で34%、本論文で約52%となっており、D2リンパ節郭清が高い頻度でなされれば術前化学療法群の予後も同様に改善されることが示された。これらの結果からは、術前化学療法の論拠として用いられてきたMAGIC 試験やACCORD-07試験の結果に関して、不十分なリンパ節郭清に留まった手術単独群(MAGIC 試験におけるD2リンパ節郭清率43%)の予後が単に悪過ぎたために術前化学療法群との間に有意な予後の差が得られただけである可能性が示唆される。
 即ち、術前の化学療法を行うことの論拠が揺らいでおり、本邦においても手術単独群に比較して術前化学療法群の予後が改善するか否かの第III相臨床試験を早急に進めることが肝要であり、臨床試験以外で安易に術前化学療法を行うことに警鐘を鳴らす論文である。

監訳・コメント:国立病院機構大阪医療センター 藤谷 和正(外科・医長)

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