論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

術前化学放射線療法+手術は直腸癌患者のDFSを改善する:NSABP R-03試験

Roh MS, et al., J Clin Oncol. 2009; 27(31): 5124-5130

 化学放射線療法+手術はステージII/III直腸癌の標準療法であるが、さらに局所再発率を低下させ、有効性を損なわず安全性を高めるために、治療の実施時期や薬剤の用量について様々な無作為化試験が行われている。本NSABP R-03試験は、これらの患者に対して化学放射線療法を術前、術後のどちらに行うべきかという点について検討したものである。
 1993年8月〜1999年6月に、臨床的T3、T4またはリンパ節転移陽性の直腸腺癌患者267例(その他の適格基準は未治療、ECOG PS≦2、放射線画像診断による遠隔臓器への転移がないこと、血球数および腎・肝機能が保たれていることなど)を登録し、化学放射線療法の実施時期によって術前群(130例)、術後群(137例)に無作為に割り付けた。
 術前群では、1コース目に5-FU 500mg/m2/週×6週とLV 500mg/m2/週×6週を、2、3コース目は放射線療法(総線量45Gy+5.4Gyのブースト照射)と化学療法(5-FU 325mg/m2+LV 20mg/m2、5日間を第1週と5週の2回)を、術後に1コース目と同じ化学療法を4コース実施した。術後群では、術前群と同じレジメンを術後に実施した。主要評価項目はDFSとOSとした。
 生存成績の評価可能症例は254例(術前群123例、術後群131例)で、死亡は254例中106例(術前群44例、術後群62例)、生存例の追跡期間中央値は8.4年であった。5年OSは術前群74.5%に対し術後群は65.6%とやや術前群が優れていた(HR 0.693、95%CI 0.468〜1.026、p=0.065)。再発、二次性原発癌、または死亡は術前群51例、術後群74例に認められた。5年DFSは64.7% vs 53.4%と術前群で有意に改善された(HR 0.629、95%CI 0.439〜0.902、p=0.011)。5年RFSも23.9% vs 27.5%と術前群が優れていた(HR 0.564、95%CI 0.360〜0.885、p=0.0115)が、5年局所再発率は両群とも10.7%であった(HR 0.86、95%CI 0.41〜1.81、p=0.693)。また肛門温存手術は、術前群の47.8%、術後群の39.2%に行われた(p=0.227)
 術前群の病理学的CR率は15.0%であった(評価可能症例113例)。奏効例の術後5年OSは87.8%、非奏効例では79.9%、5年DFSはそれぞれ87.8%、70.6%で有意差はみられなかった。奏効例に再発はなく、非奏効例の5年再発率は24.7%であった(p=0.04)。
 毒性(評価可能症例は術前群126例、術後群99例)は下痢を除いて両群に差はみられなかった。グレード4の下痢は術前群24%、術後群13%に発現しており、発生率は術前群のほうが術後群よりも高い傾向にあった。毒性は、化学療法の1コース目から発生している場合が多かった。治療関連死は術前群3%、術後群1%であった。
 以上のように、直腸癌患者に対する化学放射線療法を術後よりも術前に実施することによりDFSとRFSが有意に改善されることが示された。OSについても同様の傾向が示された。病理学的CR例では5年再発率はゼロであったが、OSとDFSの改善との相関は認められなかった。これはイベント数が少なかったのと、有意差を認めるための十分な統計学的検出力がなかったためであると考えられる。一部の患者では重篤な毒性(特に下痢)が生じたものの、本試験における集学的治療は全般的に忍容性に優れたものであった。DFSの有意な改善が認められたことから、術前化学放射線療法は局所進行直腸癌に対する治療法として推奨されるものと考えられる。

監訳者コメント

本邦でも世界標準である術前化学放射線療法の評価が必要

 直腸癌が結腸癌と比べて大きく異なる点は、疼痛、尿便失禁、感染、浮腫など患者のQOLを著しく損なう局所再発を回避することの重要度が高いところである。本邦では局所再発を減らすために側方リンパ節郭清が広く行われてきた。一方、側方リンパ節転移のある症例は全身性疾患であると考えられるため、欧米では化学放射線療法を手術に併用する集学的治療が行われてきた。側方リンパ節郭清、放射線療法(晩期障害)はともに、性機能障害や排尿障害を来すことが知られている。術前放射線化学療法は手術単独に比べ、多くの試験で局所再発率を減らすことができ、また14試験、5,974例を対象としたメタアナリシスでは術前放射線化学療法は手術単独に比し、OSでも有意に優れていることが証明された(オッズ比0.84、95%CI 0.72〜0.98、p=0.03)。
 本NSABP R-03試験はT3、T4またはリンパ節転移陽性直腸腺癌患者を対象に、術前および術後化学放射線療法の有効性と安全性を比較する目的で計画された臨床試験である。術後に比べ術前に化学放射線療法を行うことにより死亡率が33%減少することを証明するためには、検出力0.81として算出すると必要な症例数は900例であった。しかし、必要症例数を予定された期間内に集積することが不可能であると判断されたため、両群併せて267例が登録された時点で終了した。解析対象数が267例(観察期間は予定より延長)になったことにより、OSでは検出力が0.81から0.54へ、DFSでは0.61へ低下している。検出力は低いものの、本試験では5年DFSが64.7% vs 53.4%と術前群で有意に改善された(HR 0.629、95%CI 0.439〜0.902、p=0.011)。加えて、局所再発率、肛門温存手術が行われた率に関しても術前群で良好な傾向がみられていることより、治療関連有害事象として下痢の頻度は高いものの本邦においても評価すべき治療法であると考えられる。第II相試験としては、TS-1またはcapecitabineと放射線療法の併用療法に、L-OHPまたはCPT-11、あるいは分子標的治療薬を加えた術前化学放射線療法の臨床試験結果が本邦からも報告、計画されるようになってきており、いずれは手術単独を対照とした第III相試験が開始されるものと思われる。

監訳・コメント:国立がんセンター中央病院 山田 康秀(消化管内科・医長)

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