論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

食道癌に対する術前補助化学療法+手術と手術単独の無作為化試験の長期成績

Allum WH, et al., J Clin Oncol. 2009; 27(30): 5062-5067

 英国Medical Research Council(MRC)は、治療歴のない食道癌に対する術前補助化学療法+手術(CS群)を手術単独(S群)と比較するOEO2試験を実施した。この試験の初回解析結果(追跡期間中央値17ヵ月)は2002年に発表され、DFS、OSともにCS群が有意に優れていた(2年生存率はCS群43%、S群34%)。本稿では、追跡期間中央値6年の長期成績を報告する。
 1992年から1998年に802例を登録し、CS群(400例)またはS群(402例)に無作為に割り付けた。CS群にはCDDP 80mg/m2 day 1+5-FU 1,000mg/m2/日96時間持続静注を1コース3週として2コース実施した。手術は化学療法終了後3〜5週で実施し、S群では可能な限り早急に行った。主要評価項目はOS、副次評価項目はDFS、嚥下障害、およびPSとした。
 初回解析時の死亡は802例中596例(CS群280例、S群316例)であり、本解析では59例増加して655例(CS群320例、S群335例)となった。この59例のうち食道癌による死亡は38例であった。無作為化から5年以上経過して死亡した30例のうち、CS群19例中13例、S群11例中4例が食道癌に起因していた。
 OSはCS群が有意に優れており(HR 0.84、95%CI 0.72〜0.98、p=0.03)、5年OSはCS群23.0%、S群17.1%であった。組織型別の5年OSでも、扁平上皮癌22.6% vs 17.6%、腺癌25.5% vs 17.0%でCS群のほうが良好であった。DFSもCS群で有意に優れていた(HR 0.82、95%CI 0.71〜0.95、p=0.003)。
 遺残腫瘍分類別の解析では、R0群(396例)の3年OS 42.4%、生存期間中央値2.1年、R1群(141例)18%、1.1年、R2群(88例)8.6%、9ヵ月、切除不能群(75例)1.4%、2ヵ月であった。DFSの初回イベントとしては肉眼的不完全切除(R2)または切除不能がCS群14.3%、S群26.4%とS群に有意に高頻度に認められた(p<0.001)。しかし初回増悪パターンは両群で同様であり、初回再発部位が遠隔転移である患者はCS群のほうが少ないといった傾向はみられなかった。
 以上のように、OEO2試験の長期成績からは、術前化学療法は切除可能食道癌の標準治療と考えるべきであると結論される。しかし、3年生存率はR0切除後でも40%強であり、術前アプローチにはさらに改善の余地がある。例えば、病理学的CR率および3年OSは術前化学放射線療法のほうが術前化学療法よりも良好であるとの報告があり、術前化学放射線療法は手術死亡率が高いことを考慮しても、術前化学療法と同様に標準治療となり得ると考えられる。今後は、切除可能食道癌に対する最適な術前レジメンを検討する試験が求められる。

監訳者コメント

術前補助化学療法は切除可能食道癌の標準治療になるか?

 イギリスのMedical Research Council(MRC)によって行われたOEO2試験で、食道癌に対する術前補助化学療法+手術(CS群)の400例と手術単独(S群)の402例の追跡期間中央値6年の長期成績結果の報告である。腺癌が2/3を占めているが、予後の解析では腺癌、扁平上皮癌ともにCS群が有意に良好な成績が得られている。
 術前化学療法に関してはこれまでいくつかの無作為化比較試験(RCT)が報告されてきたが、有用性については意見が分かれていた。その理由として化学療法のレジメの差異や術後補助療法を付加するレジメなどから今回の結果と異なったと考えられる。今回の臨床試験の結果はevidenceの一つになると考えられるが、本研究ではR0手術の割合が約57%と低いことが問題点として挙げられる。術前診断の精度、術式などが本邦と異なることも考えられ、本邦独自のRCTを行う必要がある。また、今後は切除可能な食道癌に対する術前補助化学療法+手術と術前化学放射線療法+手術のレジメをしっかりとした手術のもとで比較する必要がある。

監訳・コメント:鹿児島大学大学院 夏越 祥次(腫瘍制御学・消化器外科学・教授)

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