論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

転移性結腸・直腸癌の生存の改善には肝転移切除および化学療法の進歩が関連する

Kopetz S, et al., J Clin Oncol. 2009; 27(22): 3677-3683

 転移性結腸・直腸癌に対する5-FU/LV単独療法による生存期間はおよそ8〜12ヵ月であるが、米国FDAはCPT-11、L-OHP、capecitabine、bevacizumab、cetuximab、およびpanitumumabなどの使用を承認しており、治療オプションは増加している。新しい化学療法剤の開発に加え、転移巣の切除率の向上に伴い、患者の転帰が改善しているとする間接的なエビデンスが存在するが、それらの寄与の程度については不明である。そこで本試験では、2施設のデータベースと地域住民対象のデータベースを用いて、転移性結腸・直腸癌患者の生存期間の変動と、肝転移切除および化学療法開発の経時的動向との関連を後向きに評価した。
 1990〜2006年にMayo ClinicまたはM.D. Anderson Cancer Centerで新規に転移性結腸・直腸癌の診断を受け、治療を行った成人患者2,470例のデータに基づいて、診断年および肝切除とOSとの関連を評価した。追跡は2008年7月31日まで実施した。この結果をより大規模な集団で検証するため、地域住民対象の癌登録システムである米国国立がん研究所のSurveillance Epidemiology and End Results(SEER)のデータベースを用いて、1990〜2005年にステージW結腸腺癌の診断を受けた成人患者49,459例の評価を行った。
 OS中央値は第1期(1990〜1997年)の診断例が14.2ヵ月で、その後は第2期(1998〜2000年)18.0ヵ月、第3期(2001〜2003年)18.6ヵ月、第4期(2004〜2006年)29.3ヵ月に増加した(いずれも第1期と比較してp<0.05)。同様に、5年OSはそれぞれ9.1%、13.0%、19.2%、32%と増加した(第4期は比例ハザードモデルによる推計値)。
 肝切除を実施した患者は合計231例であった。肝切除実施率は、1998年の診断例から増加が始まり、2000〜2006年は毎年およそ20%であった。第2〜4期に診断され、診断後12ヵ月以上生存している患者の5年OSは肝切除実施例55.2%、非実施例19.5%、OS中央値はそれぞれ65.3ヵ月、26.7ヵ月であった。
 次に、化学療法の変化による影響を検討するために、肝切除非実施例のOSを解析した。第1期の診断例との比較で、第2期には有意な改善はみられず、第3期はわずかな改善がみられたが(HR 0.87、p=0.03)、第4期は大きく改善した(HR 0.53、p<0.001)。この間、米国では2002年にL-OHP、2004年にbevacizumabおよびcetuximabが転移性結腸・直腸癌に使用できるようになっている。
 検証コホートでは、OS中央値は1990年の8ヵ月から2003年の9ヵ月にわずかに改善したのみであったが、2004年および2005年には11ヵ月に延長していた。
 上記の2施設のデータベースの解析結果から、OSの改善は第2〜3期(1998〜2003年)と第4期(2004〜2006年)で認められ、前者には肝切除実施率の上昇、後者には新規薬剤の導入が関連していると考えられた。新規薬剤の開発が継続し、適切な肝切除の実施が進めば、転移性結腸・直腸癌患者の生存のさらなる改善が期待できる。

監訳者コメント

肝切除と新規化学療法は転移性結腸・直腸癌の生存の改善にどの程度寄与しているのか?

 この20年余りの間に転移性結腸・直腸癌の治療成績が著明に改善してきたことは自明である。実際に最近の新規薬剤を用いたphase III studyではつぎつぎと生存期間の延長が報告され、また、肝転移巣切除例による予後の延長も多く報告されている。しかし、転移性結腸直腸癌患者全体の治療成績改善の原因として、どの因子がどの程度かかわっているかを定量的に観測した報告は少ない。
 本論文は米国の代表的なcancer centerであるM.D. Anderson Cancer CenterとMayo Clinicの2施設で1990年から2006年までに治療された転移性結腸・直腸癌患者をretrospectiveに解析しOSの改善と治療因子の関連を定量的にみたものである。解析方法は全期間をmedian overall survivalの改善度に応じて4期間に分け、これと肝切除率の変化、新規薬剤の使用記録を比較して検討している。その結果OSの改善は2004年を境として、第2〜3期(1998〜2003年)と第4期(2004〜2006年)に分けることができ、前者は肝切除率の上昇が、後者では新規薬剤の導入が関連していると分析した。
 このような総合的な解析ではcontroled trialが難しいためretrospectiveな研究にならざるを得ず、selection biasを完全になくすることは不可能である。また生存率改善に関与するすべての因子を検討することも困難である。しかし、肝切除の適正な導入促進と新規化学療法の進歩が生存期間延長に関与する度合をある程度定量的に証明した点では評価すべき論文と思われる。

監訳・コメント:名古屋第二赤十字病院 坂本 英至(一般消化器外科・部長)

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