論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

5-FU既治療進行結腸・直腸癌に対するCPT-11単独とL-OHP+5-FU+LVの第III相非劣性試験:N9841試験

Kim GP, et al., J Clin Oncol. 2009; 27(17): 2848-2854

 進行結腸・直腸癌に対しては、有効とされているCPT-11、L-OHP、5-FUの3剤すべてを使用することによって最良の効果が得られるとされているが、最適な組み合わせと投与順については依然として課題となっている。これらの問題を検討するため、5-FU抵抗性の進行結腸・直腸癌を対象として、FOLFOX4療法とCPT-11単独療法の有効性と安全性を多施設第III相クロスオーバー試験で比較した。
 適格患者は、転移巣に対する単回の5-FUベースの化学療法が無効、または5-FUベースの補助療法中または6ヵ月以内に病勢進行をみた、組織学的または細胞学的に診断された切除不能結腸・直腸腺癌とし、そのほか18歳以上、ECOG PS≦2などを条件とした。1999年10月〜2003年12月に491例をFOLFOX4群(246例;L-OHP 85mg/m2 day 1、および5-FU 400 mg/m2 bolus+LV 200mg/m2+5-FU 600mg/m2 22時間持続静注day 1、2を2週毎投与)、またはCPT-11単独群(245例;CPT-11 350mg/m2または300mg/m2 day 1を3週毎投与)に無作為に割り付けた。Second-line治療無効例にはthird-line治療としてクロスオーバー投与を実施した。主要評価項目はOSについてFOLFOX4群のCPT-11群に対する非劣性を検証することとし、副次評価項目はTTP、RR、毒性とした。
 Second-line治療開始後の追跡期間中央値3.0年の生存率は6.1%であった。OS中央値はFOLFOX4群13.8ヵ月、CPT-11群14.3ヵ月(HR 0.92、Wilcoxon p=0.57、log-rank p=0.38)であり、FOLFOX4群CPT-11群に対する非劣性の基準に合致した。TTP中央値はFOLFOX群6.2ヵ月、CPT-11群4.4ヵ月であり、有意差が認められた(HR 0.73、p=0.0009)。RRはFOLFOX4群28.0%、CPT-11群15.5%と約2倍の差がみられた(p=0.0009)。Second-line治療によるグレード3以上の有害事象の発現率は、悪心、嘔吐、下痢、発熱性好中球減少はCPT-11群、好中球減少と知覚異常はFOLFOX4群で有意に高かった。
 プロトコールで規定したthird-line治療を受けた患者は227例(46%)で、内訳はCPT-11→FOLFOX4 130例、FOLFOX4→CPT-11 97例であった。RRはCPT-11→FOLFOX4群13.6%、FOLFOX4→CPT-11群5.2%(p=0.039)、TTPは5.8ヵ月 vs 3.3ヵ月(p=0.0022)であり、CPT-11→FOLFOX4群が有意に優れていたが、OSは15.9ヵ月 vs 14.9ヵ月で有意差はみられなかった。有害事象の発現率はsecond-line治療の同レジメンとほぼ同様であった。
 以上のように、5-FU抵抗性の進行結腸・直腸癌に対するsecond-line療法としてのFOLFOX4には、OSに関してCPT-11単独に対する非劣性が認められ、クロスオーバー後の両群のOSにも有意差はみられなかった。RRやTTPなどの早期評価項目については、FOLFOX4療法はsecond-line、third-lineのいずれにおいてもCPT-11単独療法と比較して優れた効果を示した。毒性は既報と同様であった。本試験の成績は、転移性結腸・直腸癌患者の最適な生命予後は、CPT-11、L-OHP、5-FUの3剤すべての投与により得ることができるという従来の知見を裏づけるものである。

監訳者コメント

5-FU based治療に対する2次、3次治療においてもゴールデンスタンダードは成立する

 多施設第III相試験において、1次治療における5-FU療法に抵抗性を示した患者に対し、2次治療としてのCPT-11単独療法は全生存期間および1年生存率において有意に5-FU持続療法に良好な成績を示した(Rougier P., Lancet 352: 1998)。L-OHPの登場により、5-FU療法の2次治療として、FOLFOX4療法の可能性を検討するのが本試験の主目的と考えられる。さらに、クロスオーバー試験とすることによって、CPT-11、FOLFOX4のどちらを2次治療するべきかを明らかにすることを可能としている。結果としては、OSでは非劣性となりGERCOR V308試験 ( Tournigand C., JCO 22: 2004)と同様であった。しかしながら、TTP、 RRではFOLFOX4群が良好な成績を示しており、日常診療においてはこの点を充分留意する必要がある。現在では標準治療としてbevacizumabやcetuximabなどの分子標的薬が導入されており、これらと化学療法薬の組み合わせやKRAS変異の有無によって本臨床試験で得られた結果が、今後どのように変化していくのか興味のあるところである。

監訳・コメント:関西医科大学附属枚方病院 岩本 慈能(消化器外科・助教)

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