論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

12月

転移性結腸・直腸癌に対するfluoropyrimidine単独療法後のsecond-line治療としてのL-OHP+CPT-11併用療法とCPT-11単独療法の比較

Haller DG, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(28): 4544-4550

 5-FU+LVは今日においても進行結腸・直腸癌に対する種々の化学療法レジメンの中心的薬剤であるが、L-OHPおよびCPT-11の登場に伴い選択肢が増加し、その治療法は変化を遂げている。第I/II相試験からは、fluoropyrimidineベースの化学療法歴がある進行結腸・直腸癌に対するCPT-11+L-OHP(IROX)療法は有効であり、RRは15〜64%、OS中央値は10.5〜17ヵ月と報告されている。そこで今回のオープンラベル無作為化第III相試験では、fluoropyrimidineによる術後化学療法またはfirst-line治療で増悪または再発が認められた転移性結腸・直腸癌を対象として、IROXとCPT-11単独療法を比較した。
 適格条件は、5-FU±LVまたはcapecitabineによるfirst-line治療中/治療後に転移または再発を認めた、あるいは5-FU+LVによる術後補助化学療法中/療法後に再発を認めた手術不能結腸・直腸腺癌で、18歳以上、Karnofsky PS 70%以上、臓器機能良好、末梢神経障害がないことなどであった。2001年1月から2004年4月に628例の患者を登録し、IROX群(318例)またはCPT-11群(310例)に無作為に割り付けた。IROX群にはL-OHP 85mg/m2後にCPT-11 200mg/m2を、CPT-11群には350mg/m2を、いずれも3週毎に静注した。主要評価項目はOS、副次評価項目はRR、奏効期間、奏効までの期間、TTP、治療関連毒性などとした。
 患者あたりの投与コース数の中央値はIROX群6コース(範囲1〜22)、CPT-11群4コース(範囲1〜8)であった。
 追跡期間中央値は19.6ヵ月、カットオフ時点(447例が死亡した時点)のOS中央値はIROX群13.4ヵ月、CPT-11群11.1ヵ月(HR 0.78、p=0.0072)、カットオフを行わない場合のOS中央値はそれぞれ13.8ヵ月、11.1ヵ月(p=0.0069)で、いずれもIROX群が有意に優れていた。RR(22% vs 7%、p<0.0001)、TTP中央値(5.3カ月 vs 2.8カ月、p<0.0001)、治療関連毒性の改善率(32% vs 19%、p=0.0072)も、いずれもIROX群のほうが有意に優れていた。
 有害事象は両群ともに下痢(IROX群85%、CPT-11群78%)と悪心(77% vs 66%)の頻度が高かった。グレード3/4の有害事象の頻度は、顆粒球減少(25% vs 13%)、下痢(28% vs 23%)、感覚神経障害(5% vs 0%)がIROX群で高かったほかは、両群でほぼ同等であった。全死亡のうち有害事象が原因であったのはIROX群9例(3%)、CPT-11群5例(2%)であった。
 以上のように、治療抵抗性の転移性結腸・直腸癌に対するsecond-line治療としてのIROXは、CPT-11単独療法と比較して各種評価項目を改善した。特に、この患者群のOSが2.3ヵ月延長したことは臨床的に意義があると考えられる。IROXによる有害事象は予測および管理可能であり、それぞれの単独投与と比較して毒性プロフィルが悪化することはなかった。
 本試験開始後、転移性結腸・直腸癌の標準的first-line治療としてFOLFOXとFOLFIRIの2つのレジメンが登場してきた。また、first-lineとsecond-lineのいずれにおいても、さらに転機を改善するためにbevacizumabなどの分子標的治療薬を化学療法に追加することが多くなっている。このように、治療法は進歩しつつあるものの、IROXはfluoropyrimidine治療歴を有する転移性結腸・直腸癌に対する有用な治療選択肢であるといえる。

考察

IROXは5-FU不応例に対する標準治療か?

 Fluoropyrimidine単独療法をfirst-line治療として行った転移性結腸・直腸癌患者またはfluoropyrimidine単独で術後補助化学療法を施行中に再発した患者を対象に、second-line治療としてL-OHP+CPT-11併用療法(IROX)とCPT-11単独療法を比較した第III相試験の結果である。本試験は、2001年1月から2004年4月に患者が登録された少し古い試験である。IROXがCPT-11単独に全生存期間(OS)、無増悪期間とも有意に優ったという試験結果であった。現在はFOLFOXまたはFOLFIRI療法にbevacizumabを併用する治療がfirst-lineの標準治療であり、分子標的薬を併用せずfluoropyrimidine単剤に不応となった本試験の対象患者自体、最近ではあまり多いとはいえない。
 転移性結腸・直腸癌では、5-FU、L-OHP、CPT-11の3剤すべてを使い治療を行うことによるOSの延長が報告されている。本試験はfluoropyrimidine前治療歴のある患者を対象とした試験であり、IROX群では100%の患者が3剤すべての治療を受けることになる。一方、CPT-11群のthird-line、fourth-lineを合計すると40%(126/310例)の症例にL-OHPは投与されているが、17%(54/310例)は治療効果がないL-OHP単剤投与を受けており、L-OHP併用療法として治療を受けている症例は23%(72/310例)に過ぎない。本試験のOSでみられた有意差は、3剤による治療を受けている患者の比率の違いに起因しているのではないかと考えられる。したがって、fluoropyrimidine単独治療により増悪した患者に対しては、IROXが特に推奨される治療法ではなくCPT-11(FOLFIRI)あるいはFOLFOXとbevacizumabを併用しsequentialに3剤を投与していく従来通りの治療方針に変わりはない。

監訳・コメント:国立がんセンター中央病院 山田 康秀(消化器内科・医長)

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