論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

8月

結腸・直腸癌に対する化学療法の効果を予測するバイオマーカー:UK MRC FOCUS試験の成績

Braun MS, et al., J Clin Oncol. 2008; 26(16): 2690-2698

 FOCUS試験は、これまでに報告されている転移性結腸・直腸癌の無作為化試験としては最大規模のものであり、1次治療としての5-FU単独療法と、5-FU+irinotecan(CPT-11)またはoxaliplatin(L-OHP)併用療法との比較を行っている。本試験では、1次治療で5-FUの単独投与を行った症例は、2次治療としてCPT-11単独、5-FU+CPT-11、あるいは5-FU+L-OHPのいずれかに割付された。今回の研究では、本試験におけるCPT-11およびL-OHPの効果予測に有用なバイオマーカーを検討した。
 バイオマーカー候補の評価方法であるが、MLH1/MSH2、p53、トポイソメラーゼ-1(Topo1)、excision repair cross-complementing gene 1(ERCC1)、O-6-メチルグアニンDNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)、およびシクロオキシゲナーゼ2(COX2)については腫瘍組織の免疫組織化学染色、GSTP1ABCB1XRCC1ERCC2、およびUGT1A1については遺伝子多型を解析した。第一段階として750例以上を対象としたスクリーニングにより、predictiveな価値が示唆されない(すなわち、少数群の頻度が10%を超え、かつCPT-11またはL-OHPによる有益性との交互作用が有意水準5%で認められない)バイオマーカーの候補を除外し、第二段階では残りの候補を全例で解析した。主要評価項目はprogression-free survival(PFS)およびoverall survival(OS)とした。
 Kaplan-Meier法を用いて生存率を算出し、Cox比例ハザードモデルによる単変量および多変量解析を行った。また、尤度比解析(治療効果とバイオマーカーの関係)、Wacholderによるfalse-positive report probabilities(FPRP)解析なども行った。
 スクリーニング解析の時点では画像診断用データが揃っていなかったため、time to treatment failure (TTF)を治療効果の指標として検討したところ、TTFとの有意な交互作用が認められたのはTopo1のみであった(p=0.03)。すなわち、Topo1低発現(腫瘍細胞の核染色陽性率<10%)群ではCPT-11またはL-OHPによるTTFの改善はみられなかったが、中等度発現(10〜50%)群および高発現(>50%)群では著明に改善した。したがって、Topo1は全例解析の対象となった。MLH1/MSH2欠失がみられたのはスクリーニング対象931例中40例(4%)のみであったが、この少数の患者群では、有意な交互作用は認められないもののL-OHPによる有益性の改善が示唆されたため、これも全例解析の対象とした。
 全例のPFSのデータが揃った時点で、あらためてTTFのかわりにPFSを用い、全11種のバイオマーカー候補のスクリーニング解析を行ったところ、PFSと有意な交互作用が認められたのはTopo1のみであった(p=0.0002)。
 第二段階の全例解析の評価可能症例はTopo1が1,313例、MLH1/MSH2が1,351例であった。スクリーニング解析の場合と同様に、Topo1低発現ではCPT-11またはL-OHPを5-FU単独治療に追加することで有意なPFSの延長はみられなかったが、中等度発現/高発現ではいずれかの薬剤の追加により有意な延長効果が得られた(CPT-11ではp=0.001、L-OHPではp=0.05)。Thymidlate synthase(TS)、deoxyuridine triphosphatase、肝転移、alkaline phosphatase、組織学的分化度、年齢を調整因子とした多変量解析では、Topo1の高発現/中等度発現が、5-FU単独治療におけるPFS短縮に与える有意な独立因子であるものの、それらの発現パターンではCPT-11の有意な追加効果が得られることも示された。OSについて、Topo1低発現/中等度発現群では、1次治療でCPT-11あるいはL-OHPの併用療法を行うことによるsurvival benefitは得られなかったが、高発現群では有意な改善(中央値5.3ヵ月の延長、p=0.005)が示された。
 MLH1/MSH2欠失は1次治療で併用療法を行うことでOSが改善する傾向がみられたが、症例の頻度が低く(4.4%)、検出力に限界があった。
 以上の結果から、Topo1の免疫組織化学的染色により、CPT-11またはL-OHPが有効である結腸・直腸癌患者のサブグループを選別できることが示唆された。

考察

Topo1の免疫組織化学染色が転移性結腸・直腸癌に対する5-FU、CPT-11、L-OHPを用いた化学療法の効果予測に有用

 現在わが国では5-FU+CPT-11(FOLFIRI)、5-FU+L-OHP(FOLFOX)が転移性結腸・直腸癌に対する1次治療・2次治療として定着し、分子標的薬のbevacizumabの併用も急速に広がりつつある。
 本研究結果をわが国の現状に当てはめてみると、Topo1高発現の大腸癌では1次治療としてFOLFIRI/FOLFOXを行うことが推奨されるが、Topo1低発現/中等度発現の場合には、2次治療としてCPT-11あるいはL-OHPを含むレジメンを用いれば1次治療は5-FU単独でもよい、と解釈できる。
 Preclinical modelではTopo1低発現の腫瘍がcamptotecinに抵抗性であることが報告されているが、同様の関係は大腸癌のTopo1発現とCPT-11の間では明らかにされていなかった。この点で本研究結果は興味深い。Topo1発現とTS発現に相関があることも本論文中に述べられており、5-FUとCPT-11を同時あるいはsequentialに用いる時にはこの点についても留意しておく必要があろう。
 L-OHPの効果予測因子として従来報告されているERCC1、ERCC2などではなく、Topo1発現の有用性が示唆されたことにも興味がもたれる。この点について、著者らも慎重な考察を行い、仮説を述べている。今後、追試が必要と思われる。

監訳・コメント:埼玉医科大学総合医療センター 石田 秀行(消化管・一般外科・教授)

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