論文紹介 | 監修:名古屋大学大学院 医学研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

3月

結腸・直腸癌患者に対する術後補助化学療法と経過観察の無作為化試験

QUASAR Collaborative Group, Lancet 2007; 370(9604): 2020-2029

 結腸癌の術後補助療法として、ステージIII(リンパ節陽性)の患者に対しては5-FU+LVによる化学療法が広く使用されているが、ステージII(リンパ節陰性)の患者では、術後補助化学療法によって十分な効果が得られるかどうかは明確ではない。また、術後補助化学療法の効果は直腸癌と結腸癌で同様であるとされているが、このことを裏づける直接的なエビデンスはほとんど存在しない。そこで、ステージIIを中心とした結腸癌および直腸癌患者を対象として、5-FU+LVによる術後補助化学療法の意義を検討するために大規模無作為化試験を計画した。
 1994年5月から2003年12月に、遠隔転移のない結腸・直腸癌完全切除患者3,239例(ステージII 2,963例[91%]、結腸癌2,291例[71%]、年齢中央値63歳)を、5-FU+LVによる術後補助化学療法群(1,622例)または経過観察のみの群(1,617例)に無作為に割り付けた。化学療法群は1997年10月までは5-FU 370mg/m2静注+l-LV(高用量[175mg]または低用量[25mg])にlevamisoleまたはプラセボを併用していたが、それ以降は5-FU+低用量LVのみとした。投与スケジュールは4週毎5日間連続投与6コースを推奨したが、週1回毎週投与30コースも可能とした。
 主要評価項目は総死亡、副次評価項目は結腸・直腸癌による死亡および再発とした。
 生存例の追跡期間中央値は5.5年で、試験期間中に化学療法群311例、観察群370例が死亡した。観察群に対する化学療法群の総死亡のRRは0.82(95%CI 0.70〜0.95、p=0.008)、結腸・直腸癌死のRRは0.81(95%CI 0.68〜0.96、p=0.01)であった。再発は化学療法群293例、観察群359例で認められ、観察群に対する化学療法群のRRは0.78(95%CI 0.67〜0.91、p=0.001)であった。ただし、再発に対する化学療法の効果が認められたのは無作為化後2年以内であり(p=0.004)、以降は両群の再発率に有意差はなかった(p=0.94)。
 サブグループ解析では、腫瘍部位、ステージ、性別、年齢、または投与スケジュールによる治療効果に有意な相違はみられなかった。
 重篤な予測できない有害事象はまれであり、無作為化後30週以内の結腸・直腸癌以外による死亡は化学療法群8例(0.5%)、観察群4例(0.25%)であったが、このうち化学療法との関連が疑われた死亡は1例に過ぎなかった。
 まとめとして、ステージIIの結腸・直腸癌に対する5-FU+LVによる術後補助化学療法は患者の生存を改善するが、化学療法を実施しない場合の5年死亡率推定値を20%とすると、生存の改善率は3.6%であり、絶対値としては小さかった。今回の成績は、化学療法のベネフィットを検討するうえで有用な情報を提供するものである。今後は本試験の長期追跡と他の試験のメタアナリシスが求められるとともに、最適なレジメンを明らかにするための試験が必要である。

考察

Stage II結腸・直腸癌に対する補助化学療法の是非はこれからも検討し続ける必要がある

 5-FU/LV療法を用いたStage II結腸・直腸癌の補助化学療法の意義を検討した論文で、主要評価項目は総死亡、副次的評価項目は原癌死および再発である。結果は、結果観察群に比べ全評価項目で、統計学的有意差を認めた。また、化学療法との関連が疑われた死亡は1例であり、重篤な有害事象もまれであった。しかし、5年死亡率推定値を20%とすると、生存の改善率は3.6%と絶対値としては低かった。
 2007年JCOでearly releaseされたステージIIおよびIII結腸癌に対する補助化学療法を検討したNSABPの第III相臨床試験(C-07)の結果では、4年目のDFSでFULV群67%に対してFLOX群73.2%と6.2%の改善が認められた。しかし、ステージIIでは、それぞれ81%と84.2%であり3.2%の改善であった。一方、2007年ASCOで報告されたMOSAIC TrialのStage IIに関するデータでも、6年OSはFOLFOX4群86.9%、LV5FU2群86.8%と統計学的有意差は認められなかった。
 本邦におけるStage II結腸癌の5年生存率は、2005年版大腸癌治療ガイドラインに 83.6%と記されている。このデータは、1991年から1994年度の全国登録症例であり、FOLFOX、FOLFIRI療法などの強力な化学療法が行われていない時代のものであり、比較的再発後の化学療法による修飾がない生存率と考えられる。
 今後は、Stage II結腸・直腸癌に対する補助化学療法は、慎重に考慮しなくてはならない。現在、本邦でも SACURA Trialが行われており、その結果が待たれる。本論文でも、この試験の長期成績と他試験とのメタアナリシス、最適なレジメンを明らかにする試験が必要と結論付けている。

監訳・コメント:北里大学医学部 渡邊 昌彦(外科・教授)
北里大学医学部 佐藤 武郎(外科・診療講師)

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