論文紹介 | 監修:京都大学大学院 医学研究科 坂本純一(疫学研究情報管理学・教授)

9月

切除不能結腸・直腸癌肝転移例に対するneoadjuvant 療法:
化学療法の奏効率と肝切除率との関連性

Folprecht G, et al., Ann Oncol. 2005; 16(8): 1311-1319

 化学療法は最近10年で大きく進歩し、結腸・直腸癌肝転移例においても長期生存が報告されるようになった。また、治療開始時に切除不能であった肝転移が、neoadjuvant療法施行後に切除可能になったとの報告が近年増加している。著者らは、化学療法の奏効率と化学療法後の転移巣切除率との関連性を検討するために、奏効率、および治療開始時に切除不能であった肝転移巣の切除率を報告している臨床試験および後ろ向き研究のうち、医学雑誌掲載または国際学会での発表による全報告を対象として解析を行った。
 転移巣が肝臓に限局した患者(選択患者)を対象とした試験における、化学療法後の肝切除率は24〜54%であった。これに対して、肝以外の臓器への転移も含めた転移性結腸・直腸癌の患者(非選択患者)を対象とした試験における肝切除率は1〜26%であった。選択患者を対象とした試験では、化学療法の奏効率と肝切除率の間に強い相関関係が認められた(r =0.96、p=0.002)。同様に非選択患者を対象とした試験でも、奏効率と肝切除率は相関を示した(r =0.74、p<0.001)。
 患者選択、およびneoadjuvant療法の奏効率は、いずれも肝転移巣切除の可能性に対する強力な予測因子であった。疼痛緩和を目的とする治療では、奏効率やPFSなど古典的なendpointが重要であるが、一方、転移巣切除の可能性は、治療における治癒の可能性を重視した新しいendpointといえる。したがって、肝転移患者の治癒切除の可能性について、多分野の専門家が参画する学際的な研究を実施して検討すべきである。

考察

進行大腸癌治療の新しいendpoint

 この論文では過去の多くの報告を解析し、neoadjuvant療法の奏効率と肝転移巣の切除率に強い相関があることを示した。比較的長い論文であるが、導き出された結果はこれひとつであり、内容も改めて考えると極めて当然である。しかし、大腸癌の肝転移巣を切除できた場合には、格段の予後の延長、あるいは治癒までも望める場合があることを考えると、この事実は重要である。化学療法後に切除可能になる肝転移症例はこれまでにも時に経験したが、わが国でもFOLFOXやFOLFIRIなど新しいregimenが導入されて、今後一層増加することをこの結果は示している。著者らは肝転移巣切除率を「古典的なendpoint」に対して、「治癒の可能性を重視した新しいendpoint」として提示し、多方面の専門家が参加するべき研究としている。言い換えると、進行大腸癌の化学療法に携わるものは、この論文に示された結果を常に念頭に置き、治癒の可能性を求めるべきであると主張しているように読める。

監訳・コメント:愛知医科大学 黒川 剛(消化器外科・助教授)

このページのトップへ
  • トップ
  • 論文紹介 | 最新の論文要約とドクターコメントを掲載しています。
    • 2008年
    • 2007年
    • 2006年
    • 2005年
    • 2004年
    • 2003年
  • 消化器癌のトピックス | 専門の先生方が図表・写真を用いて解説します。
  • WEBカンファレンス | 具体的症例を取り上げ、治療方針をテーマに討論展開します。
  • 学会報告 | 国内外の学会から、消化器癌関連の報告をレポートします。
  • Doctor's Personal Episode | 「消化器癌治療」をテーマにエッセイを綴っています。
  • リレーエッセイ | 「消化器癌」をテーマにエッセイを綴っています。