論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

10月

結腸直腸癌において、予後不良因子としてのDNAメチル化は、マイクロサテライト不安定性によって、その評価が逆転する

Robyn Lynne Ward, et al., J Clin Oncol 21(20), 2003:3729-3736

 本研究は、結腸直腸癌切除後の予後因子としてのDNAメチル化と、マイクロサテライト不安定性(MSI)について、他の臨床病理学的事項と併せて検討したものである。対象は8年間(1994.1.1〜2002.8.1)に治癒切除された605例(29〜99才:中央値 68.3才)、625病変の結腸直腸癌である。臨床病理学的特徴はstage、組織型、分化度、脈管侵襲と5年後までの経過観察結果が記録された。また、切除組織で、MSIと、p16、hMLH1MINT1MINT2MINT12 および MINT31 のメチル化について検索した。
 メチル化は高齢者・女性で多くみられ、右側結腸、粘液癌、上皮内リンパ球浸潤、MSIにおいて有意に多数発現していたが、メチル化の部位と特定の臨床病理所見との関連はなかった。MSIは結腸で74例(19%)、直腸で4例(2%)に認められた。観察期間中の死亡は、マイクロサテライト安定(MSS)腫瘍患者532例中120例(23%)であるのに対し、MSI腫瘍患者では73例中9例(12%)であり、MSI腫瘍患者の方が生存率は高かった(単変量解析:危険比率HR:0.52)。MSS腫瘍患者の予後はstage(HR:7.3)、高度の腫瘍メチル化(HR:2.1)、脈管侵襲(HR:1.9)の3つの独立因子に影響された。MSI腫瘍患者ではstage(HR:6.2)、右側(HR:0.13)年齢(HR:1.0)が予後因子であり、脈管侵襲では差はなかった。また、stageUおよびV症例466例中171例が、5-FU basedの術後化学療法を受け、stageV症例で化学療法により生存率は上昇した(HR:0.2,P<0.0001)が、メチル化や臨床病理学的特徴は化学療法の効果に影響を与えなかった。

考察

予後因子として注目される、遺伝子変化の解析

 MSS結腸直腸癌ではメチル化を伴うと予後が悪い。本研究でMSS結腸直腸癌では遺伝子変化であるメチル化が、stageや脈管侵襲などの臨床病理学的指標と同様に独立した予後因子であることが示された。遺伝子の変化による腫瘍の生物学的態度の評価が端緒についたと言え、今後の遺伝子解析の結果が期待される。
 一方今回の検討で、MSIではメチル化の影響が消失している事実は興味深い。MSIを示す遺伝性家族性非ポリポーシス結腸直腸癌(HNPCC)患者の予後がよいことも知られているが、このメカニズムの解明にはさらなる検討が必要である。臨床的な面からは、病理学的には大きな差がなくても、メチル化を伴うMSS症例とMSI症例では大きく予後が異なる点が重要であり、これは術後の化学療法やサーベイランスプログラムの層別化に利用可能であろう。

(内科・小泉浩一)

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