論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

10月

結腸直腸癌による癌性腹膜炎患者における細胞減量手術+腹腔内温熱化学療法と全身化学療法+姑息的手術の無作為化比較試験

Vic J.Verwaal, et al., J Clin Oncol 21(20),2003:3737-3743

 結腸直腸癌に起因する癌性腹膜炎に対する積極的な細胞減量手術+腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の延命効果が報告されている。著者らは、この治療法が全身化学療法+姑息的手術による標準的治療よりも優っていることを確認するために無作為化比較試験を行った。1998年2月〜2001年8月の間に105名の患者が、全身化学療法(フルオウラシルとロイコボリン)および必要に応じた姑息的手術で構成される標準的治療群と、HIPECを付加した積極的細胞減量手術と同一レジメによる術後の全身化学療法で構成される実験的治療群の2群に無作為に分けられた。プライマリー・エンドポイントは生存率であった。中央値21.6ヵ月の経過観察において、生存期間の中央値は標準的治療群12.6ヵ月、実験的治療群22.3ヵ月であった(log-rank検定:p=0.032)。積極的治療群の治療関連死は8%で、HIPECの合併症のほとんどは腸管の縫合不全に関連するものであった。積極的治療群における解析では、細胞減量手術の時点で腹腔の7領域中0〜5領域が侵されていた患者では、6〜7領域が侵されていた患者よりも生存期間が有意に良好であった(log-rank検定:p<0.0001)。また、細胞減量手術が肉眼的に完全(R1)であった患者では、限局性(R2-a)または広範(R2-b)に遺残病巣のあった患者よりも生存期間の中央値が有意に長かった(log-rank検定:p=0.0001)。細胞減量手術とその後のHIPECは結腸直腸癌による癌性腹膜炎患者の生存期間を改善する。しかしながら、腹腔の6〜7領域が侵された患者や、細胞減量手術が肉眼的に不完全であった患者の予後はやはり不良である。

考察

細胞減量手術+腹腔内温熱化学療法は、癌性腹膜炎の治療オプションのひとつになり得る

 癌性腹膜炎は手術による根治は困難と一般に考えられ、標準的治療は全身化学療法である。また、対症的にはバイパス手術や人工肛門造設術が行われている。本論文の無作為化比較試験の結果は、細胞減量手術+腹腔内温熱化学療法が生存期間を延長し、結腸直腸癌による癌性腹膜炎に対する治療オプションの1つとなり得ることを示した。しかし、この治療法は8%の治療関連死、中央値で485分の手術時間と3リットルの術中出血という大侵襲を伴ううえ、腹膜播種が広範な例では延命効果がなかった。したがって、その適応は十分に吟味する必要があり、また、著者らも述べているように、化学療法にl-LV/5-FUではなくCPT-11やoxaliplatinを用いた場合や、化学療法に分子標的治療を付加した場合にも同様の結果となるか否かについて今後の検討が必要である。

(消化器外科・大矢雅敏)

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