論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

9月

食道裂孔ヘルニア、食道胃逆流症状、体型と食道および胃噴門部腺癌のリスク

Anna H. Wu, et al., Cancer 98(5), 2003:940-948

 1970年より、食道と胃噴門部の腺癌が増加しているが、その理由を探るため食道腺癌、胃噴門部腺癌、および幽門側腺癌患者と対照群(1,356例)を用いたケースコントロールスタディを行った。
 ロスアンジェルスの30〜74歳までの男女で、1992〜1997年に食道腺癌と診断された222例、胃噴門部腺癌と診断された277例と、1992〜1994年に胃体部から幽門部の遠位の胃癌と診断された443例が対象となった。947人の患者もしくは、近親者に対し個別にインタビューし、喫煙、飲酒、20〜40歳代の体重、身長、既往歴(胃・十二指腸潰瘍, 胃炎, 食道裂孔ヘルニア, 食道炎, バレット食道, 大腸ポリープ, 潰瘍性大腸炎, クローン病, 高血圧, 心臓病, 糖尿病, 慢性関節リウマチ, 肝炎)および、胃食道逆流症状の有無とその期間の調査を行った。バレット食道、食道裂孔ヘルニア、胃食道逆流現象、食道炎、および酸分泌亢進の5つの既往歴があるものは、対照群に比べ、明らかに、食道腺癌、胃噴門部腺癌のリスクが高かった。これに対し、遠位の胃癌ではこれら5つの既往歴との関連はなかった。症状からみても、逆流症状のスコアが高いほど、食道腺癌、噴門部腺癌のリスクが高かった。さらに、食道裂孔ヘルニアと自覚症状との関係をみると、食道腺癌、噴門部腺癌のリスクは、逆流症状があり食道裂孔ヘルニアがない場合で3倍、逆流症状がなく食道裂孔ヘルニアがある場合で6倍、どちらもある場合は8倍と、対照群に比べ増加した。
 一方、これらの症状や食道裂孔ヘルニアと遠位の胃癌とのリスクの関連はなかった。また、Body Mass Index(BMI)と喫煙歴、食道裂孔ヘルニアの既往歴、逆流症状のスコアとの関係についてみると、BMIの上昇と食道裂孔ヘルニアや逆流現象の間に著しい相関があった。さらに、喫煙歴がある場合には食道裂孔ヘルニアとの相関があった。

考察

BMIの増加は食道腺癌、胃噴門部腺癌と関係があるのか?

 食道腺癌と噴門部腺癌、遠位の胃癌に関する疫学調査である。膨大な数の患者を対象にインタビューによって既往歴、症状を調査し、統計学的に危険度を調査した論文である。バレット食道のみならず、食道裂孔ヘルニア、食道炎、GERD、の既往歴、逆流症状のスコアが高いほど食道腺癌、噴門部腺癌のリスクを高めること、さらに、これらの状態がBMIの増加と関連が深いことが示された。日本では、Helicobacter Pylori(HP)と胃癌の関連で、まだ遠位の胃癌が多いが、日常診療ではGERDの症状を呈する患者や、内視鏡検査で、食道裂孔ヘルニアや食道炎が増加している。40歳以下のHP陽性率の低下、食生活の変化によるBMIの増加もあり、今後日本においても食道腺癌と噴門部腺癌が増加する可能性が示唆された論文である。食道胃接合部の癌は内視鏡で観察しにくいが、このような状況を踏まえて、これからの内視鏡医は同部位の腺癌の早期発見につとめる必要がある。

(内科・藤崎順子)

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