論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

8月

大腸癌における高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)の自動化multiplex assay

G. M. Nash, et al., J Clin Oncol21(16), 2003:3105-3112

 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)は、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)やMLH1遺伝子の不活化を有する腫瘍に認められる。National Cancer Institute(NCI)方式をもとにMSIを精確かつ迅速に判定するmultiplex assayを施行して、この有効性について検討した。
 18例のアムステルダム基準を満たすHNPCCを陽性コントロールとして、従来のNCIが推奨する5つのマーカーの感度を評価した。さらに60歳以下で発症した早期発症大腸癌120例を対象として、感度の高い3つのマーカーを同時に1つの系でpolymerase chain reaction(PCR)を行うmultiplex assayと従来のNCI方式でMSIを解析した。
 HNPCC患者におけるマーカーの感度はBAT25, BAT26, D2S123の3つがそれぞれ100%, 94%, 72%と高かった。この3つのマーカーによるmultiplex方式と従来のNCI方式とを比較すると、早期発症大腸癌における高頻度MSI発現率は、それぞれ16%と23%であった。multiplex方式では高頻度MSIとは判定されず、NCI方式のみで高頻度MSIと判定された症例(NCI追加患者群)は9例だった。さらにmultiplex方式での高頻度MSI発現群と、この9例のNCI追加患者群を比較すると、それぞれLOH(異型接合体の喪失)の頻度は16%と78%、高頻度MSI大腸癌の形態学的な特徴(低分化腺癌、リンパ球浸潤等)の発現率は64%と0%、5年生存率は100%と44%であり、NCI追加患者群では高頻度MSI大腸癌の特徴を有する症例の頻度は有意に低かった。
 Multiplex assayは簡便であり、しかもNCI方式に比べてより高頻度MSI大腸癌の臨床的特徴をもつ症例群を絞り込むことができるため、予後の評価指標として、またHNPCC患者のスクリーニングに有効な解析法である。

考察

精度の高い解析の確立と普及が新知見を得るカギ

 MSI発現率の高い腫瘍に関する知見を臨床の場で活用するためには、精度が高くかつ簡便なMSI検査の確立と普及が望まれている。本論文の斬新な点は2つある。ひとつはMSI検査にmultiplex PCRを応用した点、もうひとつは感度の高い3種のマーカーを用いたMSIの解析は従来のNCI方式に比し特異度が高く、真のHNPPCの選別が可能なことが示された点である。
 モノヌクレオチドマーカー(BAT25,BAT26など)の有用性について最近他にも報告がみられる。ただBAT40(MSH6変異陽性腫瘍においてMSIの発現率が高い)は、MSIの特異度は高くなかった。Multiplex PCRは、複数のペアのプライマーを用いて1回の反応で複数の領域を増幅する方法であり、SNPの高速タイピングや巨大な遺伝子の変異のスクリーニング等に用いられる。今後このような測定法の改善や迅速化により、HNPPCなどの精度の高い解析が可能になり新知見が得られることが期待される。

(家族腫瘍センター・新井正美)

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