論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

6月

漿膜浸潤陰性胃癌に対するMitomycin, 5-FU, Cytarabineと経口5-FUによる 術後補助化学療法の無作為比較試験 (JCOG 9206-1)

Atsushi Nashimoto, et al., J Clin Oncol 21(12), 2003:2282-2287

 本研究では、術後補助化学療法が生存期間の延長に寄与するかを評価するため、漿膜浸潤陰性胃癌(T1N0を除く)根治切除後患者を対象として、日本の13の癌専門施設で第III相試験を行った。
 1993年1月〜1994年12月に252人の患者を本試験に登録し、無作為に化学療法群(術後補助化学療法付加)と手術単独群に割り付けた。化学療法群ではmitomycin 1.33mg/m2, 5-FU 166.7mg/m2, cytarabine 13.3mg/m2の週2回静注を術後最初の3週間に行い、引き続き5-FU 134mg/m2を18カ月間、計67g/m2連日経口投与した。primary endpointは無再発生存期間で、生存期間・局所再発をsecondary endpointとした。
 98%の患者で胃切除とD2以上のリンパ節郭清が行われた。治療関連死はなく、重篤な有害事象はごくわずかであった。両群間に無再発生存期間と生存期間での有意差はなかった[5年無再発生存率:化学療法群88.8%, 手術単独群83.7%(p=0.14)、5年生存率:化学療法群91.2%, 手術単独群86.1%(p=0.13)]。化学療法群の9例(7.1%)と手術単独群の17例(13.8%)に再発を認めた。
 肉眼的漿膜浸潤陰性胃癌根治切除後の患者では、今回の化学療法により無再発生存期間や生存期間の統計学上有意な延長は得られなかった。再発形式は両群間で有意な差はなかった。
 今回の検討から、前記レジメでの術後補助化学療法は一般診療としては推奨できない。

考察

さらなるエビデンスが必要とされる胃癌術後補助化学療法

 胃癌の術後補助化学療法については、いくつかのメタアナリシスで延命効果を示唆する結果が報告されているが、胃癌ガイドラインに記されている通り、エビデンスとしていまだ十分ではない。
 本試験で対象としたT1N0を除く漿膜浸潤陰性胃癌症例では、手術単独のみで治癒する可能性が予想以上に高いことが示された(5年生存率:86.1%)。したがって、術後補助化学療法によるこれ以上の上乗せ効果の期待は乏しいと思われる。
 一方、長期にわたる化学療法を継続することにより、少ないながらも毒性を伴う点を考えれば、一般診療ではこうした対象への術後補助化学療法を標準的治療として行うべきではない。
 今後も手術単独群を対照群とした無作為比較試験を行い、術後補助化学療法の有用性を確立していく必要がある。

(化学療法科・陳 勁松)

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