論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

5月

Gastrointestinal stromal tumor(GIST)の予後因子としてのp16INK4の変化

Regine Schneider-Stock, et al., J Clin Oncol 21(9), 2003:1688-1697

 GISTは消化管によくみられる間葉系腫瘍である。免疫組織学的にGISTはKIT(CD117,幹細胞因子受容体)陽性である。GISTはしばしば、臨床的に悪性の様相を示すが、その予測は困難な場合が多い。
 この研究では、予後因子の重要な因子の一つとして、cyclin-dependent kinase(CDK:サイクリン依存性キナーゼ)4 inhibitor遺伝子のp16INK4について検討を行った。p16遺伝子はヒト染色体9p21より単離され、遺伝子産物はCDK4に結合して、そのサイクリンD1との結合を妨げ、細胞周期をG1期で停止させる他、プロモーター領域のde-novoメチル化, point mutation, ホモ接合性の欠失などにより、さまざまな腫瘍の不活性化を起こすことが知られている。
 43例のGISTに対し、腫瘍抑制遺伝子としてのp16INK4の変異について、メチル化、PCR-SSCP-sequencingによる変異の発現、c5.1マーカーを用いたp16INK4におけるヘテロ接合性の消失、p16INK4産生蛋白を免疫組織学的に検討した。p16INK4変異は25/43(58.1%)にみられ、変化のない症例に比べて明かに予後が悪かった。また、免疫組織学的な検討によるp16INK4蛋白の発現消失は27/43(62.8%)にみられた。p16INK4の変異はp16INK4蛋白の発現消失、発現低下と非常によく相関していた(P<0.01)。
 重要な点は、組織学的悪性例では予後が悪く、p16INK4変異一致性が高かっただけでなく、組織学的に良性またはborderlineと診断された症例においても、p16INK4の変異があった症例では予後がよくなかった点である。組織学的にborderlineのグループではp16INK4変異のあった7例中6例がGISTで不幸な転機となった。また良性のグループでは、p16INK4変異陰性の6例のすべてが生存、変異陽性の4例中3例がGISTで死亡した。COX回帰モデルを用いた解析では、p16INK4の変化, 腫瘍径, mitotic index, 局在, 腫瘍のsubtype, 性別, 年齢, MIB1 proliferation indexを比較すると、p16INK4の変化が最も予後と関係していた。
 GISTにおいて、p16INK4の変異を評価することは予後予測因子として有用であり、特に組織学的に良性またはborderlineと診断された症例において有効な予後予測因子となる。

考察

免疫組織学的アプローチによるGISTの予後推定の可能性

 従来は手術適応や予後の指標として、腫瘍サイズ, 組織学的な核分裂像などが用いられていたが、腫瘍サイズが小さくても核分裂像の多いものや予後の悪い症例があることが報告されている。この研究で注目すべき点は、組織学的に良性またはborderlineと診断された症例において、p16INK4変異のあった症例で予後が悪かったことである。この遺伝子の変異は、免疫組織学的に産生蛋白の消失との相関が高いことより、遺伝子レベルでの検索を行わなくても、p16INK4蛋白の発現の程度により、予後の予測が可能であることを意味している。近年、超音波内視鏡下穿刺術が普及し、GISTに代表される粘膜下腫瘍の針生検が行われるようになった。今後、超音波内視鏡下穿刺による組織採取率が向上し、組織を免疫組織学的に染色することにより、予後推定に貢献できる可能性が示唆された。

(内視鏡部・藤崎順子)

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