論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

5月

多パラメーターフローサイトメトリーによる大腸癌のアポトーシスと増殖活性の同時測定は, 臨床成績が異なる高/低ターンオーバー腫瘍を分別する

J. Dennis Rupa, et al., Cancer 97(10), 2003:2404-2411

 補助化学療法は、Dukes'Cでは行われるが、Dukes'Bにおいては、再発し致死となる症例であっても行われていないのが現状である。本研究は、より適格な補助化学療法対象者を見極めるため、アポトーシスと増殖活性の検知という斬新な方法で、患者の予後をどう改善するかを評価した。
 1979〜1981年に手術が施行され, 術後補助化学療法を受けていない大腸癌278例のパラフィンブロック標本を対象とした。多パラメーターフローサイトメトリーを用いて、加熱による前処理と免疫化学的な腫瘍細胞単離の後、アポトーシス分画(apoptosis fraction:AF)をM30免疫染色陽性細胞比率で、また、細胞増殖活性測定をDNA定量分析(S期細胞分画:SPF)で同時に測定し、術後10年以上の経過観察の結果との関係を検討した。AFおよびSPFの平均値はそれぞれ11.1%, 13.1%で、AFとSPFには正の相関があり(p=0.01)、進行した腫瘍ほど高値であった(p=0.02)。AFとSPFの組み合わせから、AFとSPFがともに平均値以上であった高ターンオーバー腫瘍(n=115)と、AFとSPFがともに平均値未満であった低ターンオーバー腫瘍(n=123)を抽出して10年生存率をみると、高ターンオーバー腫瘍では13%であったのに対して、低ターンオーバー腫瘍では89%であった(p<0.001, log rank test)。Dukes'BおよびDukes'Cの各進行度ごとに検討しても、高ターンオーバーの例は予後不良であった(各進行度でp<0.001)。このように、多パラメーターフローサイトメトリーによるアポトーシス分画と増殖活性の同時測定は、保存標本の細胞ターンオーバーの判定を可能にし、より正確な予後予測や補助化学療法の適応決定に臨床応用できる。

考察

アポトーシスは大腸癌の予後に相関する

 多パラメーターフローサイトメトリーを用いてアポトーシス分画と増殖活性を同時に測定し、大腸癌細胞のターンオーバーと予後との関連を検討した研究である。この研究で使用されたM30-CytoDEATH抗体は、アポトーシス初期の検出に優れるとされている。この研究の最も重要な知見は、細胞増殖活性の高い大腸癌ではアポトーシス分画も大きく、癌細胞のターンオーバーが加速されているということであろう。盛んなターンオーバーの過程で、さらなる遺伝子変異が癌細胞に生じて進展が加速され、予後不良になると著者らは推論している。一方、補助化学療法の適応決定などの臨床的な目的には、細胞増殖活性とアポトーシスの相関を前提とすると、片方の測定でも十分かもしれない。さらに、この研究では少数であったが、両者の乖離した病変をどう考えるかも重要な課題である。

(消化器外科・大矢雅敏)

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