論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

3月

大腸癌術後患者の新たな腺腫発生に対するアスピリンの抑制効果についての検討

Robert S. Sandler, et al., N ENGL J MED 348(10), 2003:883-890

 アスピリンやNSAIDsなどのCOX-2阻害剤には、大腸ポリープや大腸腫瘍の抑制効果があることが知られている。本研究は、大腸癌術後患者に対するアスピリン投与が、腺腫の発生の抑制に寄与するか否かを検討した二重盲検randomized clinical trialである。
 対象は大腸癌術後患者635例で、そのうちDukes'AおよびB1患者が396例(62%)、Dukes'B2およびC患者が239例(38%)であった。結腸内視鏡検査で、すべてのポリープを切除後、アスピリン325mg/日投与群(317例)とプラセボ群(318例)に分けて検討した。年齢, 性, 術式, stageなどの患者背景については、両群間に差はなかった。薬剤投与後少なくとも1回以上の内視鏡観察を受けたのは517例で、検査時期の中央値は12.8カ月後であった。内視鏡検査施行例では平均1.6回の経過観察が行われた。
 腺腫の発生率は、アスピリン投与群で17%、プラセボ群で27%とアスピリン投与群で有意(p=0.004)に低かった。発生個数の平均もそれぞれ0.30個と0.49個であり、アスピリン群で有意(p=0.003)に少なかった。複数個発生した比率はそれぞれ6%, 12%であった。発生した腺腫の最大径、および径1cm以上の病変や絨毛成分を持つ病変の比率に差はなかった。薬剤による有害事象は、grade 4(上部消化管出血もしくは潰瘍)が各群2例、grade 3(H2レセプター拮抗剤, PPIが必要なdyspepsia)が各群4例であった。癌関連死はアスピリン群7例, プラセボ群10例であった。プラセボ群と比較したアスピリン投与による腺腫発生の訂正相対危険度は0.65、最初の腺腫が発生するまでの危険度も0.64であり、アスピリンによる腺腫発生の抑制効果が示された。

考察

さらに検討が必要な大腸癌に対するアスピリンの抑制効果

 多数のプロスペクティブスタディで、アスピリンが大腸癌および腺腫の発生を抑制することが報告されてきた。本研究は大腸癌のハイリスク群と考えられる大腸癌術後患者でも、アスピリンが腺腫の発生を抑制することを証明したものである。大腸腫瘍の化学予防については、家族性大腸腺腫症の腺腫にはスリンダクやセレコキシブなどのCOX-2阻害剤が極めて有効であるが、一般の大腸腫瘍には、アスピリン以外は確たる効果が上がっていない。本研究は、大腸癌ハイリスク群に対する化学予防を期待させるものである。しかし、アスピリンの用量は本邦の常用量に比し大量であり、有害事象の発生のため、早期に試験終了となっている。したがって、実際に化学予防を行うためには、至適用量の決定と、エンドポイントを大腸癌の発生とした場合の検討も必要であろう。

(内科・小泉浩一)

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