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Abstract #7
T1食道癌に対するセンチネルリンパ節マッピング
Sentinel lymph node mapping for T1 esophageal cancer
Hiroya Takeuchi, et al.
Global standardを目指したセンチネルリンパ節コンセプトの確立へ向けて
同定されたセンチネルリンパ節の個数は平均4.6個と胃癌とほぼ同程度であったが、その分布は広範に亘っており、食道癌におけるリンパ流の複雑性を示唆する結果であった。偽陰性例はわずかに2例 (3%) であったことから、97%ではセンチネルリンパ節生検の結果に基づく治療が可能と思われた。ただし、全縦隔に及ぶセンチネルリンパ節の生検が決して低侵襲ではないことや、今後センチネルコンセプトを臨床にどのように応用していくかなど多くの課題も明確にされていた。
それよりも大きな問題は、欧米と我が国における食道癌手術におけるリンパ節郭清の差である。欧米では上縦隔郭清は基本的に行われておらず、ディスカッサントのCleveland ClinicのProf. Thomas Riceはセンチネルリンパ節の生検個数が4.6個であったことに対して、米国では郭清リンパ節個数は通常10個程度であるので、郭清するのと差がないと皮肉混じりにコメントしていたが、逆に我が国の外科医からは失笑を買っていた。
今後はセンチネルコンセプトに基づく低侵襲手術の開発や、世界における食道癌手術の標準化を目的として、我が国が主導して前向きの多施設共同臨床試験を実施していくべきであろう。
3領域リンパ節郭清を伴う食道癌根治切除術は、本邦では胸部食道癌の標準術式とされており、早期のcT1N0症例に対しても実施されてきた。しかしながら、3領域郭清という高侵襲手術の画一的な適用を回避するため、我々はセンチネルリンパ節マッピングによって個々のリンパ節転移の状態を知ることで早期食道癌の手術方法を変更できるという仮説を立て、検証を行った。
対象は前治療のないcT1N0の食道癌 (扁平上皮癌および腺癌) で、食道切除術を施行された患者とした。早期食道癌のセンチネルリンパ節の同定方法として、内視鏡下に放射性医薬品 (Technetium-99mスズコロイド) を注入するRIガイド法を確立した。センチネルリンパ節の放射活性の測定には、術前のリンパ管シンチグラフィおよび術中の手持ち式ガンマプローブを用いた。胸腔鏡下および腹腔鏡下手術では、トロッカーポートから特別なガンマ線検出器を挿入して行った。
1999年〜2011年の間に慶應義塾大学で食道切除術を施行された早期食道癌患者70例にセンチネルリンパ節生検を実施した。患者背景を表1に示す。
センチネルリンパ節は94% (66 / 70) の症例で同定された。同定されたセンチネルリンパ節数の平均値は1症例あたり4.6個、センチネルリンパ節陽性率は91% (21 / 23)、一致率は97% (64 / 66) であった。
センチネルリンパ節は頸部から腹部にかけての広範囲で検出された。80%超の症例で1個以上のセンチネルリンパ節が第2群ならびに第3群の領域リンパ節に認められた。しかしながら、85% (56 / 66) の症例はリンパ節転移がない、またはセンチネルリンパ節のみの転移であり (表2)、理論的には原発巣切除とセンチネルリンパ節の郭清によってコントロールが可能と考えられた。
センチネルリンパ節は頸部から腹部にかけての広範囲で検出された。80%超の症例で1個以上のセンチネルリンパ節が第2群ならびに第3群の領域リンパ節に認められた。しかしながら、85% (56 / 66) の症例はリンパ節転移がない、またはセンチネルリンパ節のみの転移であり (表2)、理論的には原発巣切除とセンチネルリンパ節の郭清によってコントロールが可能と考えられた。
早期食道癌 (cT1N0) においてセンチネルリンパ節の概念は容認できるものであり、センチネルリンパ節流域をターゲットとしたリンパ節郭清の個別化は、食道切除術の侵襲を減らすためには有用と考えられた。一方で、縦隔リンパ節生検は必ずしも低侵襲ではないこと、センチネルリンパ節が広範囲に認められたこと、予測できない転移のパターンがあることから、その臨床応用は限られる可能性もある。今後、多施設における前向きな検討が必要である。
Reference
1) Kitagawa Y, et al.: 2009 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4518 [学会レポート]
1) Kitagawa Y, et al.: 2009 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4518 [学会レポート]
関連リンク
2009 年 米国臨床腫瘍学会年次集会 #4518
胃癌のセンチネルリンパ節マッピングに関するプロスペクティブな多施設共同試験 2010年 消化器癌シンポジウム #1
胃癌のセンチネルリンパ節マッピングの有用性に関する研究:日本におけるプロスペクティブな多施設共同試験
2009 年 米国臨床腫瘍学会年次集会 #4518
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