2010年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2010年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

Abstract #402
Oxaliplatin+フッ化ピリミジン系薬剤±cetuximab療法:
進行再発大腸癌における静注5-FUおよびcapecitabineの有効性 (MRC COIN試験の結果より)

Oxaliplatin and fluoropyrimidine chemotherapy plus or minus cetuximab: The effect of infusional 5-FU or capecitabine on the outcomes of the MRC COIN trial in advanced colorectal cancer (ACRC).

Timothy S. Maughan, et al.

CetuximabとXELOXの併用療法は、実地診療で行うべきではない

吉野 孝之先生

 COIN試験の解釈には留意すべき点がある。本試験は、イギリス医学研究評議会 (MRC; Medical Research Council) が行ったイギリス国内の医師主導臨床試験である。一方、CRYSTAL試験やOPUS試験は欧州におけるcetuximab一次治療の承認申請試験であり、COIN試験より質の高いデータ管理がなされていたと考えるべきである。
 COIN試験の結果から、1)腫瘍のKRAS NRAS BRAF がいずれも野生型、2)5-FU/LVとの併用、3)転移巣が1つ以下の場合には、cetuximabの上乗せが期待できるとする結論には賛同できる。しかし、上記1)から3)の対象に限局し、bevacizumabとのhead-to-headを行った場合にcetuximabが優越性を示せるか否かは、現在進行中のCALGB80405試験、Fire-3試験の結果から慎重に考えるべきである。
  前述の通り、本試験のクオリティの問題や、cetuximab併用群のベースレジメンのdose intensityが低下していたことなどを勘案すると、有効性と安全性の側面から今後の臨床試験の結果をみて判断していくことが必要であるが、少なくとも現段階では、cetuximabとXELOX療法の併用は実地診療で行うべきでなく、NCCNガイドライン2010のversion 1.0から2.0への改訂時にも削除されたことを留意されたい。

 
背景

 MRC COIN試験は、進行再発大腸癌における1st-line治療としてのoxaliplatin (L-OHP) + フッ化ピリミジン系薬剤 (capecitabineまたは5-FU/LV) 療法に対するcetuximabの上乗せ効果を比較・検討した無作為化比較試験である。

対象と方法

 2005年3月から2008年5月までに、イギリスおよびアイルランドの110施設から患者が登録された。主な適格基準は、1)腫瘍が測定可能であり、手術が不可能な進行大腸癌である、2)化学療法の治療歴がない、3)WHO Performance Status (PS) が0-2である、4)臓器機能が良好などである。これらの登録患者を1:1:1の割合で下記の3群に無作為に割り付けた。

  • A群(継続投与): 815例
5-FU/LV(mFOLFOX)群: L-OHP+5-FU/LV、2週毎
Capecitabine(XELOX)群: L-OHP+capecitabine、3週毎
  • B群(継続投与): 815例
A群にcetuximabを追加投与
  • C群(間欠投与): 815例
A群の治療を12週間行った後、経過観察する。病勢進行が認められたら治療を再開し、さらに12週間投与を行う。

 フッ化ピリミジン系薬剤のcapecitabineおよび5-FU/LVは、無作為化前に主治医と患者により選択された。一次エンドポイントは、KRAS 野生型におけるoverall survival (OS) である。
 なお、本報告はXELOXまたはmFOLFOX療法に対するcetuximabの上乗せ効果の検討であり、C群は除外した。

結果

 対象症例1,630例 (A群およびB群) のうち、PS 0-1は92%、有原発巣症例は41% (肝転移のみは23%) であり、XELOX療法を受けた患者はA群、B群ともに66%であった。腫瘍の遺伝子変異の評価が可能であった1,316例 (81%) のうち、KRAS 野生型は729例 (遺伝子変異評価症例の55%) であった。また、NRASBRAF についても評価を行い、KRASNRASBRAF がすべて野生型であったのは581例 (同44%) であった。
 KRAS 野生型のA、B両群間のOSおよびPFSについては、cetuximabの上乗せ効果は認められなかった (OS; HR=1.04、p=0.67、PFS; HR=0.96、p=0.60) 。Best overall responseはA群57%、B群64%、p=0.049とわずかではあるが有意差が示された。
 治療期間はA群、B群ともにmFOLFOX療法群がXELOX療法群に比べて1ヵ月長く (p<0.001) 、またcetuximabの併用による治療期間に差は認められなかった (mFOLFOX; p=0.2、XELOX; p=0.3) 。治療強度 (dose intensity) はcetuximabを併用したB群で有意に低下しており (p<0.001) 、A群ではmFOLFOX療法群がXELOX療法群よりも低下していた (p=0.031) 。
 サブ解析では、KRASNRASBRAF がすべて野生型の患者において、転移巣の個数 (1個以下; HR=0.73、2個以上; HR=1.07、p=0.04) および併用したフッ化ピリミジン系薬剤の種類 (5-FU/LV; HR=0.72、capecitabine; HR=1.02、p=0.04) により、PFSに差が認められた。

結論

 XELOXまたはmFOLFOX療法にcetuximabを上乗せしても、OSおよびPFSの有意な延長効果は認められなかった。ただし、1)腫瘍のKRASNRASBRAF がいずれも野生型である、2)5-FU/LVとの併用、3)転移巣が1つ以下の場合には、cetuximabの上乗せ効果が認められる可能性があると考えられた。