The European Cancer Congress 2013 - ESMO
抗EGFR抗体薬の登場以来、世界中で治療効果予測因子の探索が行われてきた。当初はIHCによるEGFR発現を有する症例が抗EGFR抗体薬の適応とされていたが、大規模臨床試験の後解析によりEGFR発現の程度と抗EGFR抗体薬の効果には相関がないことが示された。その後、KRAS exon 2 (codon 12, 13) 変異を有する症例には抗EGFR抗体薬が無効であることが多くの臨床試験の後解析の結果より示され、抗EGFR抗体薬の適応はKRAS 遺伝子野生型に限定されるようになった。さらに今年の米国臨床腫瘍学会、ECC/ESMOではKRAS exon 2だけではなく、他のマイナーなRAS 遺伝子変異を有する症例においても抗EGFR抗体薬の効果が期待できないことが報告され、今後、抗EGFR抗体薬の適応はKRAS 野生型からRAS 野生型へさらに絞り込まれていくだろう。
今回の2つの試験は抗EGFR抗体薬の初期耐性 (効果予測) に関わる遺伝子を探索的に検討した。#2186では細胞株を用いた検討で有望な結果が得られているが、今後は臨床検体を用いた検討でheterogeneityを克服し再現性が得られるか、#2399では臨床試験のサンプルを用いて複数の遺伝子発現の組み合わせた効果予測を試みており、複数の遺伝子変異・発現が関与している大腸癌においては興味深いアプローチといえるが、少数例の検討であることより大規模臨床試験のサンプルを用いた検証が重要である。
今後もこのような探索的検討をもとに検証を重ね、beyond KRAS からbeyond RAS の時代を迎えることを期待したい。
上皮成長因子受容体 (epidermal growth factor receptor: EGFR) は、細胞増殖、浸潤、血管新生、転移、アポトーシス抑制などにより癌細胞の成長を促進させることにより、モノクローナル抗体薬による治療標的となっている。しかし、抗EGFR抗体薬による治療を受けた切除不能進行・再発大腸癌患者の多くは治療抵抗性を示すようになる。また、KRAS やBRAF 変異のようなバイオマーカーは抗EGFR抗体薬の治療抵抗性の予測因子となることが報告されている。そこで、大腸癌細胞株を用いて、抗EGFR療法抵抗性のバイオマーカーについて検討した。
KRAS /BRAF 野生型の大腸癌細胞株の抗EGFR抗体薬に対する感受性および抵抗性の測定にはCellTiter 96® AQueous Proliferation Assayを用い、細胞増殖率が50%以上であれば抵抗性、50%未満であれば感受性と判定した。感受性/抵抗性の差異をもたらすバイオマーカーの発現はRT-Profiler Arrayを用いて決定し、qRT-PCR法で評価した。また、抵抗性細胞株において過剰発現したバイオマーカーはsiRNAを用いてノックダウンし、再度qRT-PCR法で評価した。そして、siRNAによるノックダウン後の細胞株における抗EGFR療法への抵抗性の変化を検討した。
各種細胞株を72時間培養したところ、SW48 (70%)、SNU-C1 (83.8%)、COLO-320DM (68.3%) の細胞株は抗EGFR療法に抵抗性であり、LIM1215 (18.6%)、CaCo2 (42%)、SW948 (29.1%) は感受性を示した (図1)。
抵抗性を示した細胞株に過剰発現している遺伝子は、SW48: EGR1 、SNU-C1: HBEGF 、COLO-320DM: AKT3 であり、これらの遺伝子に対してsiRNA療法を72時間続けたところ、それぞれ85.6%、79.4%、95.3%がノックダウンされた。
その後、各細胞株に抗EGFR療法を24時間行ったところ、EGR1 ノックダウン細胞の増殖率は49.1%であり、ノックダウンされていない細胞の99.8%と比べて低かった。同様に、HBEGF はそれぞれ46.9%、103.2%、AKT3 はそれぞれ64.1%、92.2%であり、各遺伝子ノックダウン細胞は抗EGFR療法に対して感受性を示すようになった。
今回の検討では、EGR1 、HBEGF 、AKT3 が細胞増殖シグナル発現に関与していることが示された (図2)。
HBEGF はエクトドメインシェディングにより可溶型HBEGF として細胞外に放出され、EGFR系統のERK/MAPK活性により癌細胞の増悪を導く。
EGR1 はERK発現に関わる転写因子であり、ERKのリン酸化による細胞核への移行により、細胞増殖を促進させる。
AKT 活性はGSK3活性を阻害する。GSK3は真核生物翻訳開始因子2Bを活性化するが、この因子は翻訳開始時にリボソームを誘導し、タンパク質合成を導く。
これらの過剰発現したバイオマーカーを解析することで、抗EGFR療法の抵抗性や効果を予測する因子を見出せる可能性がある。
大腸癌には少なくとも6つの生物学的サブタイプが見つかったことにより、一般化された化学療法ではなく生物学的な特性に則った治療の必要性が増している。
Panitumumabは単剤投与でKRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌患者のPFSを改善することが示されているが、全ての症例でそのベネフィットが得られるわけではない。今回の第II相試験の目的は、切除不能進行・再発大腸癌に対する3rd-lineとしてのPanitumumab単独投与症例における効果予測遺伝子を探索的に検討することであり、過去に報告されたCetuximabの効果予測、およびBRAF 変異に類似した表現型の候補遺伝子の発現について検討した。
対象はKRAS (codon 12, 13) 野生型の切除不能進行・再発大腸癌3rd-line例であり、Panitumumab単剤 (6mg/kg, 2週毎) を増悪するまで投与した。なお、効果判定は2ヵ月に1度CTにて評価した (RECIST)。
遺伝子解析については、組織標本からRNAを抽出し、既報のBRAF 変異、Cetuximabの効果予測遺伝子候補を含む121種類の遺伝子をNanoString nCounter®を用いて測定した。
標本は8つのハウスキーピング遺伝子 (ACTB 、GUSB 、PSMC4 、RPLP0 、PUM1 、SF3A1 、TFRC 、MRPL19 ) により標準化され、また、TCGA (The Cancer Genome Atlas) に登録された遺伝子発現データベースに標準化された。そして、SAM (significant analysis of microarrays) ソフトウエアを用いてPanitumumab耐性遺伝子のランク付けを行った。
登録された40例のうち37例でRECISTでの評価が可能であり、PR 8例、SD 17例、PD 12例であった。37の原発巣標本および12の転移巣標本が集積され、原発巣37例中35例、転移巣12例中7例でIHC法によるHER2 statusのスコア化が可能であった。
TCGAコホートにおける100遺伝子セットの階層的クラスタリング分析とKRAS 変異との間には有意な相関はみられなかった。また、Panitumumab投与でPDであった症例において、TCGAへの標準化前のコホートでSAM解析を行ったところ、ERBB2 、RAD51 、MLPH 、KLK6 、MYRF が過剰発現していた (表1)。
教師なし法による階層的クラスタリングにて、TCGAに標準化されたコホートは2つの主要なクラスターに分類されることが示された。また、7つの転移巣標本は対応する原発巣標本のクラスター近傍に、5つの転移巣標本は対応する原発巣標本と同じクラスターに存在したことから、コホートの多くの原発巣と転移巣は同様の遺伝子発現プロファイルを持つことが示された。
また、標準化前と同様のSAM解析を行った結果、Panitumumab抵抗性に関与する9つの遺伝子が同定された (表2)。なお、9つのうち3つの遺伝子 (ERBB2 、MLPH 、MYRF ) は標準化前の結果と重複した。スコア上位の8つの遺伝子とそれぞれのスコアを計算したところ、各スコアとPanitumumab奏効との間に強い相関が認められた (p=0.041)。
HER2 statusのIHCスコア化が可能であった35例を解析した結果、IHCスコア[低発現群 (IHCスコア 0-2) vs. 過剰発現群 (3+) ] とPanitumumabによる奏効には、有意な負の相関が認められた (p=0.014)。
KRAS 野生型切除不能進行・再発大腸癌に対する3rd-lineにおけるPanitumumab単剤の第II相試験の結果、病勢コントロール率は68%であった。
Panitumumab抵抗性に関わる遺伝子発現が9つ同定され、そのうち8種類はPanitumumab抵抗性を有意に予測しており、ERBB2 が最も過剰発現していた。また、HER2のIHCスコアもPanitumumab抵抗性と有意な負の相関にあることが示された。
現在、同コホートにおける全exomeシークエンシングが進行中である。