The 35th ESMO Congress, Milan 2010

ESMO 2010

演題レポート Presentations

Abstract #LBA19/580O
  大腸癌
HORIZON II/III試験: 転移性大腸癌初回治療例に対するFOLFOX + Cediranib療法の有用性

 Cediranibは血管内皮増殖因子受容体 (VEGFR) チロシンキナーゼ阻害剤の経口薬であり、3種類のVEGFRを阻害する。複数の第I相試験から、FOLFOXとCediranibの併用により、その抗腫瘍効果が増強することが示されている1-2)。今回、転移性大腸癌初回治療例におけるFOLFOX + Cediranibの2つの大規模臨床試験結果が報告された (HORIZON II/III試験)。

Bevacizumabという高いハードル -大腸癌にTKIの夜明けは到来せず

小松 嘉人 先生

 CediranibはVEGFR系チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI: tyrosine kinase inhibitor) の経口薬であり、化学療法との併用により抗腫瘍効果を増強させ、Bevacizumabを凌ぐ次代の分子標的治療となることを期待されていた。今回は、placeboとの比較であるHORIZON II試験と、Bevacizumabとの直接対決となるHORIZON III試験の2つの試験結果が報告された。
 両試験ともに、Phase II partにおいて、Cediranibの投与量を決定するため20 mgと30 mgに割り付けされた。有効性・安全性を考慮し、20 mgが選択されたとのことだが、詳細は不明である。今回、HORIZON II試験では、progression-free survivalはCediranib群8.6ヵ月、placebo群8.2ヵ月 (p=0.0121) であり、Cediranibのplaceboに対する優越性が証明されたが、overall survivalについては証明できなかった。また、HORIZON III試験ではいずれの有用性も認められず、有害事象については有意にBevacizumab群より重篤であったことから、大腸癌におけるCediranibのこれ以上の開発は行われないことが報告された。
 ディスカッサントのKöhne先生も、先に開発が中止されたPTK/ZKのデータ3) とHORIZONのデータを比較しながら、TKIがどうしてもBevacizumabとの比較試験において有意な結果を出せず、この領域で新しい治療が開発されないことをしきりに残念がっていたようである。プレスリリースにより事前にわかっていたこととはいえ、非常に残念な結果であった。次なる分子標的薬が早く開発されることを期待する次第であるが、Bevacizumabは有害事象もmildであり、よほど有意な有効性を発揮する薬剤でなければ、比較試験で勝つことは難しいものと思われる。

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#LBA19
HORIZON II試験: FOLFOX/XELOXに対するCediranib併用の上乗せ効果を検討した無作為化比較二重盲検プラセボ対照第III相試験

Cediranib plus FOLFOX/XELOX versus placebo plus FOLFOX/XELOX in patients with previously untreated metastatic colorectal cancer: a randomized, double-blind, Phase III study (HORIZON II)

P.M. Hoff, et al.

対象と方法

 HORIZON II試験は、化学療法歴のない転移性大腸癌患者 (WHO PS 0/1) を対象とした国際共同無作為化比較二重盲検プラセボ対照第III相試験である。
 FOLFOX/XELOX + Cediranib 20 mg/日、同 + Cediranib 30 mg/日、同 + placebo群に1: 1: 1の割合で無作為に割り付けた。Cediranibの投与量を20 mg/日に決定した後は、FOLFOX/XELOX + Cediranib 20 mg群と同 + placebo群に2: 1の割合で無作為に割り付けた (図1)

表1

  • 一次エンドポイント
  Progression-free survival (PFS)
  Overall survival (OS)
  • 二次エンドポイント
  Objective response rate (ORR)、duration of response (DoR: 治療奏効期間)、肝切除率、創傷治癒遅延発生率、安全性、忍容性

結果

 2006年9月〜2008年8月に860例 (FOLFOX/XELOX + Cediranib 20 mg群: 502例、同 + placebo群: 358例) が登録された。年齢中央値はそれぞれ58.0歳、59.0歳、男性: 59.6%、59.2%、WHO PS 0: 57.4%, 58.4%であった。併用化学療法は両群間に差はなく、両群合わせてFOLFOX4: 26.2%、mFOLFOX6: 17.1%、XELOX: 56.7%であった。
 Cediranib群とplacebo群のPFSはそれぞれ8.6ヵ月、8.2ヵ月 (HR=0.84、95%CI: 0.73-0.98、p=0.0121) であり、Cediranib群において有意な延長が認められたが、OSは19.7ヵ月、18.9ヵ月 (HR=0.94、95%CI: 0.79-1.12、2-sided p=0.5707) であり、有意差は得られなかった。その他の有効性は下表に示す通りである。

図1

 CTCAE Grade 3以上の有害事象の発生率はCediranib群で高く (Cediranib群: 77.8%、placebo群: 62.0%)、重篤な有害事象 (SAE*) についても同様であった (40.8%、29.3%)。特にCediranib群で多くみられた有害事象は、下痢 (71.0%、48.0%)、嘔吐 (46.6%、36.6%)、高血圧 (46.0%、12.0%)、食欲不振 (45.8%、35.2%)、疲労 (40.6%、29.1%)、口内炎 (23.8%、13.7%) などであった。
 試験開始後6ヵ月間の併用化学療法のdose intensity (用量強度) 中央値はCediranib群で低く、placebo群に比べて約10%の減少が認められた。

  *SAE: serious adverse event  

結論

 FOLFOX/XELOX + Cediranib は一次エンドポイントであるPFSを有意に延長したものの、OSおよびORR、DoR、肝切除率については有意差が得られなかった。Cediranib群の有害事象は過去の報告と同様であったが、Grade 3以上の有害事象の発生率がplacebo群に比して高率であった。また、Cediranibに関連する有害事象はコントロール可能であったが、併用化学療法の用量強度の低下につながった。

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#580O
HORIZON III試験: mFOLFOX6 + Cediranib とmFOLFOX6 + Bevacizumabの有用性を比較・検討した無作為化比較二重盲検第II/III相試験

mFOLFOX6 + cediranib versus mFOLFOX6 + bevacizumab in previously untreated metastatic colorectal cancer: a randomized, double-blind, Phase II/III study (HORIZON III)

H-J. Schmoll, et al.

対象と方法

 HORIZON III試験は、化学療法歴のない転移性大腸癌患者におけるmFOLFOX6 + CediranibとmFOLFOX6 + Bevacizumabの有用性を比較・検討した国際共同無作為化二重盲検第II/III相試験である (図2)。第II相から第III相への移行は、本試験の第II相およびHORIZON II試験のデータをもとに決定する。

図2

  • 一次エンドポイント
  Progression-free survival (PFS)
  優越性が示されなかった場合は非劣性検定を実施。HRの95%CI上限を1.2未満とした。
  • 二次エンドポイント
  Overall survival (OS)、objective response rate (ORR)、duration of response (DoR: 治療奏効期間)、QOL、安全性、忍容性

結果

 2006年8月〜2009年1月までに1,422例が登録された (Cediranib群: 709例、Bevacizumab群: 713例)。
 Cediranib 群とBevacizumab群のPFSは、それぞれ9.9ヵ月、10.3ヵ月 (HR=1.10、95% CI: 0.97-1.25、p=0.1190) であり、有意差は認められなかった。また、非劣性についてもHRの95% CIが上限の1.2を超えていたため示されなかった。
 OSはCediranib群で22.8ヵ月、Bevacizumab群では21.3ヵ月 (HR=0.94、p=0.5459)、ORRは46.3%、47.3% (OR 0.96、p=0.6719)、DoRは8.6ヵ月、9.6ヵ月 (p=0.202) であり、いずれも有意差はみられなかった。QOLスコア (FACT-C) は、Bevacizumab群が有意に優れていた (HR=1.36、p<0.0001)。
 5%以上のGrade 3/4の有害事象は、好中球減少 (Cediranib群: 31.8%、Bevacizumab群: 23.6%)、下痢 (13.8%、5.8%)、疲労 (7.8%、4.8%)、末梢神経障害 (7.2%、9.7%)、高血圧 (7.0%、4.1%)、感覚性末梢神経障害 (5.8%、5.3%) であり、好中球減少と下痢はCediranib群で特に高値であった。mFOLFOX6の治療サイクル数はCediranib群で少なかった。

結論

 mFOLFOX6 + CediranibはmFOLFOX6 + Bevacizumabに比べ、PFS、OS、ORRのいずれにおいても有意差がみられず、またPFSにおける非劣性も示されなかった。有害事象やQOLはBevacizumab群のほうが良好であった。Cediranibに関連した有害事象はコントロール可能であったが、mFOLFOX6の投与量の減少がPFSに影響を及ぼしたと考えられた。
 HORIZON II試験では、Cediranibの併用による有意なPFSの延長が認められ、PFSのHRはNO16966試験4)のFOLFOX/XELOX + Bevacizumab群と同等であった (HORIZON II: HR=0.84、NO16966: HR=0.83)。本試験では、有効性におけるBevacizumab群との有意差はみられなかったが、Bevacizumabよりも毒性が強く、実臨床への応用は限られるであろう。

Reference
1) Drevs J, et al.: J Clin Oncol. 25(21): 3045-3054, 2007 [PubMed
2) Chen E, et al.: Clin Cancer Res. 15(4): 1481-1486, 2009 [PubMed
3) Hecht JR, et al.: 2005 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3
4) Saltz LB, et al.: J Clin Oncol. 26(12): 2013-2019, 2008 [PubMed