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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 切除不能胃癌に対する初回化学療法は、フッ化ピリミジン系製剤とプラチナ製剤の併用療法が標準治療とされているが、特に高齢者において毒性が問題となることが多い。進行胃癌治療の主な目的は症状緩和であるため、今回70歳以上の高齢胃癌患者を対象に、Capecitabine単独療法 (X) とCapecitabine + L-OHP併用療法 (XELOX) の比較第III相試験を実施した。

対象と方法

 対象は、70歳以上、ECOG PS 0-2、臓器機能が保たれている、化学療法の治療歴がない (術後補助化学療法終了後6ヵ月以上経過した場合の再発は適格)、測定可能・評価可能な病変 (RECIST) を有する進行胃腺癌患者であった。患者は無作為にX群 (Capecitabine 1,000mg/m2, 1日2回, day 1-14, 3週毎) とXELOX群 (Capecitabine 1,000mg/m2, 1日2回, day 1-14、L-OHP 110mg/m2, day 1, 3週毎) に割り付けられた (図1)。

図1

 主要評価項目はOS、副次評価項目はQOL、安全性、奏効率等であった。

結果

 初回中間解析の対象は50例 (X群26例、XELOX群24例) であった。患者背景は、全体で年齢中央値 (範囲) 76 (70-84) 歳、男/女が34/16例、ECOG PS 0-1/2が40/10例、Charlson’s comorbidity index 2以下/3以上が42/8例であり、両群でよくバランスがとれていた。

 OS中央値はX群5.37ヵ月、XELOX群13.53ヵ月とXELOX群で延長する傾向を認め (HR=0.310, 95% CI: 0.242-1.063, p=0.072) (図2)、PFSはXELOX群で有意に延長した (中央値3.10ヵ月 vs. 7.07ヵ月、HR=0.327, 95% CI: 0.167- 0.641, p=0.001) (図3)。

図2

図3

 奏効率はX群31%、XELOX群42%であった。

 治療サイクル数中央値はX群3サイクル、XELOX群8サイクルであり、relative dose intensity (RDI) はX群94%、XELOX群 91% (Capecitabine)、86% (L-OHP) であった。有害事象は、末梢神経障害がX群に比べXELOX群で多くみられたが (全grade: 2% vs. 16%)、それ以外は大きな差を認めなかった ()。


 QOLについては、2サイクル終了時では両群間でglobal QOLスコアに差は認めなかったものの (平均スコア: 52 vs. 57)、X群で疲労、疼痛および不眠が多かった。4サイクル終了時ではX群のほうがXELOX群に比べ、global QOLスコア、疲労、疼痛および便秘が悪化していた。

結論

 70歳以上の高齢者進行胃癌に対する初回治療としてのCapecitabine + L-OHP併用療法は、Capecitabine単独療法に比べ生存ベネフィットが得られると考えられる。

コメント

 高齢胃癌患者に対する抗癌剤治療の姿勢を問う試験である。結果は、フッ化ピリミジン系製剤単剤 (Capecitabine単剤) よりプラチナ製剤との併用 (Capecitabine + L-OHP療法) がQOLを低下させずに生存の延長を得ていた。本試験で注目されるところは、副次評価としてQOL評価が行われていたことである。両群に差はないものの、2サイクル後の評価が低い傾向にあるのは単剤群である。これをPFS曲線と照らし合わせると、単剤群で早期に増悪した症例が多い。つまり、癌診療においてQOL評価に最も影響する因子は、抗癌剤治療による副作用ではなく、あくまでも癌進行に起因する苦痛であることを支持する結果である。とかく一般臨床では、高齢者に対して治療内容が消極的でunder treatmentとなりがちである。これまでの警鐘どおりに、高齢者を暦年齢のみで判断せずに、生物学的年齢を判断して十分な治療をすべきである。
 今春、本邦でも胃癌に対してXELOX療法が承認された。しかし、本報告では抗癌剤投与量が通常のXELOX療法のL-OHP投与量130mg/m2に対して110mg/m2に減量されていることも、実臨床に応用する際には気を付けたい。

 

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:佐藤 温)

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