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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 ASPECCT試験は標準治療に無効となったKRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対するPanitumumab (Pmab) とCetuximab (Cmab) の有効性と安全性を比較した第III相試験であり、2010年2月~2012年7月までに1,010例が登録され、999例に治療が行われた。主要評価項目のOS中央値は、Pmab群10.4ヵ月 (95% CI: 9.4-11.6)、Cmab群10.0ヵ月 (95% CI: 9.3-11.0)で非劣性が示された(HR=0.97, 95% CI: 0.84-1.11)1)。今回、症例登録終了から2年が経過した時点において、abstract #3586では有効性、安全性の最終解析を行った。また、抗EGFR抗体薬の有害事象としての低Mg血症は生存と関連することを示唆した報告2-4)を受け、abstract #3587ではASPECCT試験の症例を対象に低Mg血症の有無別に生存の解析を行った。

対象と方法

 ASPECCT試験では、既治療のKRAS exon 2 野生型切除不能進行・再発大腸癌患者999例が、Pmab群とCmab群に1:1の割合で無作為に割り付けられた (図1)。

図1

・Abstract #3586
ASPECCT試験の最終解析として、PmabとCmabのOSへの効果を比較した。
・Abstract #3587
治療期間中の低Mg血症の発現率、効果との関連が検証された。Mgの測定は来院ごと (Pmabは2週毎、Cmabは毎週) 行われた。低Mg血症はLLN以下、もしくは1.2mg/dL/0.5mmol/Lと定義された。Mgのサプリメントについては検証されなかった。

結果

・Abstract #3586
 一次解析 (2013年2月5日) ではPmab群の77%、Cmab群の78%が死亡していることが報告されたが1)、今回の検討 (2014年9月15日) ではPmab群の89%とCmab群の91%が死亡しており、観察期間中央値は41.3週間であった。
 最終解析でのOSはPmab群10.2ヵ月 (95% CI: 9.4-11.4)、Cmab群9.9ヵ月 (95% CI: 9.0-10.8) であり、PmabのCmabに対する非劣性が確認された (HR=0.94, 95% CI: 0.82-1.07, p=0.0002)(図2)。

図2

・Abstract #3587
 低Mg血症の発現率はPmab群29% (grade 3/4 7.3%)、Cmab群19% (grade 3/4 2.6%) であり、Pmab群で高頻度に認められた。一方、低Mg血症発現までの期間中央値はPmab群の82日に対してCmab群では57日だった。低Mg血症により治療を中止したのはPmab群1%、Cmab群0.4%であり、用量調節を行ったのはPmab群5%、Cmab群3%であった ()。


 低Mg血症の有無と生存期間との関連では、低Mg血症例では非低Mg血症例と比較し、Pmab群とCmab群の両群でPFS、OSが延長し (図3)、奏効率が高かった。

図3

結論

 ASPECCT試験の最終解析においてもPmabのCmabに対する非劣性が示された。低Mg血症はCmab群と比較しPmab群で多く認められた。両群において低Mg血症例では非低Mg血症例と比べ、OS、PFS、奏効率が良好であった。

コメント

 PmabのCmabに対する非劣性とともに、抗EGFR抗体薬の有害事象として低Mg血症が発現する症例はgood responderである可能性が高いことが示された。10のRCTをメタ解析した結果では、Cmab使用例がgrade 3/4の低Mg血症を呈する相対危険度は8.60 (95% CI: 5.08-14.54) であった5)。抗EGFR抗体薬の使用によってgrade 3/4の低Mg血症を呈する頻度は、大腸癌で2.9% (95% CI: 1.7-3.1) と報告されている5)。また、抗EGFR抗体薬の使用期間が長くなるほど低Mg血症の発現頻度は高くなる6)
 低Mg血症が発現した場合の対処として、経口Mg製剤は抗EGFR抗体薬による低Mg血症の予防にも治療にも効果が期待できないとの報告がある7)。これは、経口Mg製剤を投与した場合のbioavailabilityが低いためと考えられる。なお、低Mg血症の治療ではMg製剤の静注もしくは筋注を原則とする。
 また、血清Mg値の低下が軽度である時期にMg製剤の静脈内投与を開始することで、重篤な低Mg血症を予防できる可能性がある8)。さらに、抗EGFR抗体薬の投与による低Mg血症が重篤化すると、Mg製剤の静脈内投与でも補正が困難となる。なお、本研究では低Mg血症のgradeと奏効率、OSなどには相関を認めなかった。低Mg血症への対処が適切になされていたためであると考えられる。
 低Mg血症は抗EGFR抗体薬が有効であるサインの可能性が高いことから、その適切なモニタリングと早期の対処は一層肝要であると言える。

(レポーター:中村 将人 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Price TJ, et al.: Lancet Oncol. 15(6): 569-579, 2014 [PubMed]
  2. 2) Burkes R, et al.: Eur J Cancer. 47(S420): 6095 poster, 2011
  3. 3) Vincenzi B, et al.: Ann Oncol. 22(5): 1141-1146, 2011 [PubMed
  4. 4) Vickers MM, et al.: Ann Oncol. 24(4): 953-960, 2013 [PubMed]
  5. 5) Chen P, et al.: Oncol Lett. 5(6): 1915-1920, 2014 [PubMed]
  6. 6) Tejpar S, et al.: Lancet Oncol. 8(5): 387-394, 2007 [PubMed]
  7. 7) 出水睦子ほか. 癌と化学療法. 40: 897-900, 2013
  8. 8) 中本恵理ほか. 医療薬学. 37: 403-409, 2011

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