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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 TRIBE試験はイタリアで行われた切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-line治療としてのFOLFIRI + Bevacizumab療法とFOLFOXIRI + Bevacizumab療法を比較した第III相試験であり、後者においてPFSにおける優越性が証明され、奏効率、OSに関しても後者の良好な傾向が示されている1)。今回、RASBRAF 遺伝子検査を追加し、サブグループ別の治療成績を検討した。

対象と方法

 TRIBE試験で無作為割付された患者508例を対象とし、OSデータはアップデートされたもの(観察期間中央値48.1ヵ月, イベント数FOLFIRI+Bevacizumab群200例, FOLFOXIRI+Bevacizumab群174例, OS中央値25.8ヵ月 vs. 29.8ヵ月, HR=0.80, p=0.030) を用いた。測定法は、KRAS およびNRAS 遺伝子 codon 12, 13, 61とBRAF codon 600遺伝子の変異はPyrosequencing法、KRAS/NRAS 遺伝子 codon 59, 117, 146変異はSequenom MassArray法が用いられた。

結果

 KRAS codon 12, 13, 61およびBRAF codon 600の遺伝子変異が評価可能であったのは508例のうち391例であった。KRAS/BRAF 野生型165例のうち131例で追加の遺伝子検査がなされ、結果38例で新たにRAS 変異が検出された。今回の解析対象集団はRAS/BRAF 野生型93例、RAS 変異型236例、BRAF 変異型28例であった (図1)。

図1

 遺伝子変異別OS中央値はRAS/BRAF 野生型37.1ヵ月、RAS 変異型25.6ヵ月、BRAF 変異型13.4ヵ月であった (図2)。ECOG PS、原発巣部位、Kohne scoreなどがOSの予後不良因子であり、それらで調整したHR (RAS/BRAF 野生型を1とする) はRAS 変異型 1.30 (95% CI: 0.94-1.79, p=0.113)、BRAF変異型2.24 (95% CI: 1.32-3.81, p=0.003) であった。

図2

 遺伝子変異別サブグループのOS中央値は、RAS/BRAF 野生型ではFOLFIRI群33.5ヵ月 vs. FOLFOXIRI群41.7ヵ月であり (HR=0.77, 95% CI: 0.46-1.27)、RAS 変異型ではそれぞれ23.9ヵ月 vs. 27.3ヵ月 (HR=0.88, 95% CI: 0.65-1.18)、BRAF 変異型では10.7ヵ月 vs. 19.0ヵ月 (HR=0.54, 95% CI: 0.24-1.20) であった ()。


結論

 RAS/BRAF 遺伝子変異は予後不良因子である可能性が示唆された。FOLFOXIRI + Bevacizumab療法はFOLFIRI + Bevacizumab療法と比較して、すべての遺伝子変異別サブグループで良好なOSが認められた。

コメント

 本報告はTRIBE試験のアップデートであり、結論はこれまでと同様である。ただし、前回の結果報告2)でFOLFOXIRI + Bevacizumab療法の有用性が検証されているものの、本邦では依然としてその毒性管理から広く頻用される状況には至っていない。すでに、他の大規模第III相試験において、より忍容性の高いレジメンでOS中央値30ヵ月前後の結果が報告されていることも、頻用されない理由の1つなのかもしれない。そのような状況の中で、本報告が注目されているのは、やはりBRAF 変異型症例への有効性である。これまでの数々の臨床試験の後解析で、いずれもその予後の悪さを示してきた。BRAF 変異型症例に対する有効なレジメンが得られていない状況の中で、FOLFOXIRI療法は最も期待される結果を残している。後解析ではあるものの、本報告で示されたOS中央値で8ヵ月の差 (HR=0.54) は魅力的である。本レジメンは12サイクル後に維持療法へ移行するものであり、毒性管理が十分に行えれば現実的なレジメンなのかもしれない。今後、実臨床においてBRAF 遺伝子検査が承認されたときに本レジメンの意義はとても大きいと考える。

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
  1. 1) Loupakis F, et al. N Engl J Med. 371(17): 1609-1618, 2014 [PubMed] [論文紹介]
  2. 2) Loupakis F, et al. 2014 ASCO Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #3519 [学会レポート]
 

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