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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 切除不能進行・再発大腸癌においてKRAS 遺伝子変異は抗EGFR抗体薬の効果予測因子であり、 BRAF 遺伝子変異は予後予測因子であることが示されているが、根治切除後の転移巣がない状況におけるこれらの遺伝子変異の影響はまだ十分にわかっていない。

 PETACC8試験とN0147試験はいずれも根治切除されたstage III大腸癌に対する術後補助化学療法としてFOLFOXに対するCetuximabの上乗せ効果を検討した第III相試験であり、両試験ともにCetuximabの上乗せ効果を認めなかった1,2)。その後のバイオマーカー解析としてPETACC8試験ではKRAS 変異型では再発までの期間が短いこと3)、N0147試験ではBRAF 野生型のKRAS 変異型において予後不良であることが示された4)

 一方、マイクロサテライト不安定性 (microsatellite instability: MSI) は、ミスマッチ修復 (mismatch repair: MMR) 遺伝子の機能異常によるDNA複製エラーを反映する指標であり、MSI-high症例では術後補助化学療法として5-FUの効果がないことが報告されている5)。今回、PETACC8試験とN0147試験において術後補助化学療法としてFOLFOX ± Cetuximab療法を受けた症例の中からMSIを除いたマイクロサテライト安定性 (MSS) 症例のみを対象とし、根治切除後のBRAF 遺伝子変異およびKRAS 遺伝子変異の治療成績に与える影響が検討された。

対象と方法

 PETACC8試験とN0147試験に登録されたMSS症例を、BRAF 変異型、KRAS 変異型、BRAFKRAS ともに野生型 (野生型) の3つの群に分類した。それぞれの変異と、再発までの期間 (time-to-recurrence: TTR)、全生存率 (OS)、再発後の生存 (survival after relapse: SAR) との関連を解析した。

結果

 PETACC8試験およびN0147試験に登録された5,577例のうち、MSSでかつBRAF 遺伝子変異とKRAS 遺伝子変異の評価が可能であった3,934例を対象とした。BRAF 変異型は279例 (7%)、KRAS 変異型は1,450例 (37%)、野生型は2,205例 (56%) であった。

 3年TTRは野生型80%、BRAF 変異型69% (HR=1.49, 95% CI: 1.19-1.87, p=0.0005)、KRAS 変異型70% (HR=1.60, 95% CI: 1.60-1.83, p<0.0001) であり、野生型と比較しBRAF 変異型、KRAS 変異型では有意に再発までの期間が短かった (図1)。

図1

 3年OSは野生型91%、BRAF 変異型 74% (HR=1.72, 95% CI: 1.33-2.22, p<0.0001)、KRAS 変異型 86% (HR=1.52, 95% CI: 1.29-1.79, p<0.0001) であり、同様に、野生型と比較しBRAF 変異型、KRAS 変異型では有意に予後不良であった (図2)。

図2

 SARは野生型2.57年、BRAF 変異型1.0年、KRAS 変異型2.09年であった (図3)。

図3

 TTR、OSの多変量解析では、Cetuximabの使用の有無とKRAS / BRAF 遺伝子変異の間に相関関係は認められなかった (TTR: p=0.38, OS: p=0.16)。

結論

 今回のプール解析より、術後補助化学療法としてFOLFOX療法が使用されたMSS症例のBRAF 変異型、KRAS 変異型において、有意にTTR、SAR、OSが短いことが示された。現在RAS 解析が進行中である。今後、術後補助化学療法の臨床試験を行う際は、これらの遺伝子変異を重要な層別化因子として考慮するべきである。

コメント

 術後補助化学療法にFOLFOX ± Cetuximab療法を受けたMSS大腸癌症例の遺伝子解析結果である。術後3年TTRはBRAF 変異型、KRAS 変異型ともに約70%であり、その曲線の開きも比較的小さい。一方、野生型はOS、SARともにBRAF 変異型、KRAS 変異型と比較して有意に良好であったが、TTRと異なり両者の曲線が大きく開いていた。BRAF 変異型とKRAS 変異型が術後に再発を来すリスクはほぼ同等であるが、再発後はKRAS 変異型のほうがより長期間生存するとも解釈できる。さらに多変量解析で、BRAF 変異型とKRAS 変異型のいずれにおいてもCetuximabの使用の有無はTTR、OSに関与しなかったとされた。しかし、PETACC8試験とN0147試験では、Cetuximabの併用によりKRAS 変異型の予後が有意に低下し、KRAS 変異型のTTRやOSに影響を及ぼしていると考えられる。いずれにしても、FOLFOX療法とFOLFOX + Cetuximab療法を分けて検討する必要があると思われる。

(レポーター:中村 将人 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Taieb J, et al.: Lancet Oncol. 15(8): 862-873, 2014[PubMed
  2. 2) Alberts SR, et al.: JAMA. 307(13): 1383-1393, 2012[PubMed
  3. 3) Blons H, et al.: Ann Oncol.?25(12): 2378-2385, 2014[PubMed
  4. 4) Yoon HH, et al.: Clin Cancer Res. 20(11): 3033-3043, 2014[PubMed
  5. 5) Des Guetz, et al.:?Eur J Cancer. 45(10): 1890-1896, 2009[PubMed

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