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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2015年6月 シカゴ

背景と目的

 大腸癌の発癌予防を目的とした1次予防においてアスピリンの定期的な内服が有効であることが無作為化比較試験や観察研究の結果として報告されている1-3)。しかし、発癌予防に有効な用量、治療を開始する年齢、適切な治療期間などが不明であること、出血などの有害事象が認められることから、実地臨床における1次予防としての使用にはまだ議論があるのが現状である。今回、大腸癌診断後の予後に対するアスピリンの影響について大規模コホート研究が行われた。

*がんの2次予防について、本邦では「がんの早期発見、早期治療」を示すことが多いが、本研究では「がんと診断された後の予後改善効果」(本邦では3次治療にあたる) を示している。

対象と方法

 ノルウェーでは、すべての国民について個別IDナンバーを用いたPublic Health Care Systemにより診断、処方内容が登録されている。本研究では同データベースを用いて、2004~2011年の間に大腸癌と診断された症例を対象に、診断後アスピリン内服の有無についてCRC-specific survival (CSS) およびOSとの関連が検証された。

結果

 対象とした期間内に29,495例が大腸癌と診断され、そのうち初発であること、adenocarcinomaと診断されていることなどの条件に適合した25,644例が解析対象となった。25,644例のうちアスピリン内服群6,109例、非内服群19,535例であり、患者背景には有意な群間差が認められた。アスピリン内服群では非内服群と比較して男性比率が高く (56% vs. 49%)、高齢 (74歳 vs. 70歳)、組織学的分類が良好で高分化から中分化型腺癌が多く、より進行度の低い症例が多かった。

 観察期間中央値2.2年において、死亡数はアスピリン内服群2,088例 (34.2%)、非内服群7,595例 (38.9%) であり、CSSはそれぞれ1,172例 (19.2%)、6,356例 (33.5%) であった。

 多変量解析の結果、アスピリン内服群は非内服群と比較してOS (HR=0.86, 95% CI: 0.81-0.91, p<0.001)、CSS (HR=0.75, 95% CI: 0.70-0.81, p<0.001) ともに良好であった。

結論

 大腸癌と診断した後のアスピリンの内服はOS、CSSを改善する。

コメント

 大腸癌の発癌予防 (1次予防) には、少なくとも5年間のアスピリン投与が必要と報告されている4)。本研究では、中央値2.2年の観察期間中に発生した癌死を含む死亡について検討されており、アスピリンの大腸癌の2次予防効果というより、アスピリンの術後予後改善効果を検証したともいえる。

 これまで、大腸癌の術後に投与されたアスピリンの予後改善効果についていくつか検討が行われてきた。いずれにおいても、アスピリンが投与された大腸癌のDFSやOSが良好であったと報告されている5-7)。しかし、これらはいずれも後方視的なコホート研究であり、対象症例数はすべて5,000例未満である。本研究の対象症例数は25,000例を超えており、これまで行われたコホート研究のなかで最大規模といえる。その結果、これまでなされた報告と同様に、アスピリンの投与が大腸癌による死亡と全死亡を低下させたことには大きな意義があると考えられる。

 なお現在、Dukes CとハイリスクのDukes B結腸直腸癌症例を対象として、周術期の補助化学 (放射線) 療法に対する アスピリンの上乗せ効果を検証するASCOLT試験が進行中であり8)、ディスカッションのなかで、その結果が報告されるのは2023年と述べられていた。この無作為化比較試験の結果で有効性が確認されれば、再発の懸念がある大腸癌症例にアスピリンの術後投与を考慮する価値があると考えられる。

(レポーター:中村 将人 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Rothwell PM, et al.: Lancet. 377(9759): 31-41, 2011[PubMed
  2. 2) Flossmann E, et al.: Lancet. 369(9573): 1603-1613, 2007[PubMed
  3. 3) Cuzick J, et al.: Lancet Oncol. 10(5): 501-507, 2009[PubMed
  4. 4) Thorat MA, Cuzick J.: Curr Oncol Rep. 15(6): 533-540, 2013[PubMed
  5. 5) Bastiaannet E, et al.: Br J Cancer. 106(9): 1564-1570, 2012[PubMed
  6. 6) Reimers MS, et al.: J Am Geriatr Soc. 60(12): 2232-2236, 2012[PubMed
  7. 7) Ng K, et al.: J Natl Cancer Inst. 107(1): 345, 2014[PubMed
  8. 8) Ali R, et al.: Trials. 12: 261, 2011[PubMed

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