このページを印刷する

GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 ACTS-GC試験1)の結果から、本邦における標準的な胃癌術後補助化学療法はUFTからS-1に置き換わりつつある。しかし、臨床試験においてこれら薬剤の直接比較は行われていない。一方、Paclitaxelは進行胃癌に対するキードラッグの1つとして広く使われており、特に腹膜播種に対して高い有効性が認められている。そこで本研究では、局所進行胃癌術後補助化学療法における経口フッ化ピリミジン製剤単独療法に対するPaclitaxel→経口フッ化ピリミジン製剤逐次投与療法の優位性の検証、およびUFTとS-1の非劣性を検証することを目的に、2×2デザインの無作為化第III相試験を実施した。

対象と方法

 対象は胃癌根治切除例 (R0/1, cT3/4, cN0-2, M0) で、UFT療法 (A群)、S-1療法 (B群)、Paclitaxel→UFT逐次投与療法 (C群)、Paclitaxel→S-1逐次投与療法 (D群) に無作為に割り付けた (図1)。主要評価項目はDFS (disease-free survival)、副次評価項目はOS (overall survival)、プロトコール治療の完遂率、有害事象とした。

図1

 統計学的考察として、3年DFSを単独療法群で50%、逐次投与療法と単独療法のHR=0.8 (検出力90%)、UFT療法とS-1療法のHR=1.0 (非劣性マージン1.33、検出力88%) と設定し、目標症例数を1,480例 (各群370例) とした。

結果

 2004年8月から2009年10月に1,495例が登録され (A群374例、B群374例、C群374例、D群373例)、このうち解析対象は1,433例 (A群359例、B群364例、C群355例、D群355例) であった。各群の患者背景は、平均年齢63.9~64.6歳、PS 0 84.8~88.3%、腫瘍最大径8cm以上が31.5~32.4%、リンパ節転移陽性84.8~85.1%と、群間に有意差は認められなかった。

 プロトコール治療の完遂率はA群60.7%、B群62.2%、C群69.7%、D群70.8%であった。Grade 3以上の血液毒性では、好中球減少がA群11.4%、B群13.2%、C群13%、D群23.4%と、D群で最も多かった。非血液毒性では食欲不振が多く、それぞれ5.8%、6.6%、2%、5.1%であった (図2)。なお、治療関連死は認められなかった。

図2

 単独療法 (A + B群) と逐次投与療法 (C + D群) の比較では、3年DFS率は各54.0%、57.2%と有意差は認められなかった (HR=0.92, 95% CI: 0.80-1.07, p=0.273) (図3)。背景因子によるDFSのサブグループ解析では、いずれも逐次投与療法で良好な傾向が認められたものの有意ではなかった。なお、5年OSについてもそれぞれ55.8%、59.3%と差はなかった (HR=0.93, 95% CI: 0.79-1.09, p=0.342)。

図3

 UFT療法 (A + C群) とS-1療法 (B + D群) の比較では、3年DFSはそれぞれ53.0%、58.2%と、UFTの非劣性は示されず (HR=1.23, 95% CI: 1.07-1.43, p=0.151)、S-1群の優位性が示された (HR=0.81, p=0.0057) (図4)。背景因子によるDFSのサブグループ解析では、リンパ節転移のない患者を除きいずれもS-1療法群で良好な傾向が認められた。また、5年OSはそれぞれ54.3%、60.7%と差はなかった (HR=1.23, 95% CI: 1.04-1.44, p=0.161)。

図4

結論

 Paclitaxel→経口フッ化ピリミジン製剤逐次投与療法は、経口フッ化ピリミジン製剤単独療法と比べ再発抑制効果は有意ではなかったものの、良好な傾向がみられた。また、UFT療法とS-1療法との比較では、S-1療法が有意に優れていた。局所進行胃癌術後補助化学療法としてのPaclitaxel→経口フッ化ピリミジン製剤逐次投与療法は忍容可能で有用であると考えられた。

コメント

 本試験で検証されたのは、胃癌の術後補助化学療法におけるS-1に対するUFTの非劣性と、これら経口フッ化ピリミジン製剤にweekly Paclitaxelを先行させることの意義の2点である。結果はいずれもnegativeで、我が国における胃癌術後補助化学療法の標準としてのS-1単剤48週投与の地位は揺るがない。結果はnegativeであったが、232施設から1,495例が登録された意義は大きいといえる。我が国でも臨床試験の裾野が広がり、定着することが望まれる。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Sakuramoto S, et al.: N Engl J Med. 357(18): 1810-1820, 2007 [PubMed]

閉じる

演題速報
アクセスランキング

このサイトは医療関係者の方々を対象に作成しています。
必ずご利用規約に同意の上、ご利用ください。記事内容で取り上げた薬剤の効能・効果および用法・用量には、日本国内で承認されている内容と異なるものが、多分に含まれていますのでご注意ください。