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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 欧米における胃癌はほとんどのケースが進行癌で発見される。プラチナ製剤とフッ化ピリミジン系薬剤による併用化学療法がOS (overall survival) とQOLを改善するが、1st-lineが不応となった症例の予後は不良である。すでに2つの試験により、2nd-lineのOSへの寄与が示されているが1,2)、QOLに対する確実なデータはない。

 そこで、増悪した食道・胃腺癌患者に対するDocetaxelと積極的な症状コントロールを比較する多施設共同非盲検第III相無作為化試験、COUGAR-02試験が行われた。

対象と方法

 本試験の適格基準は、18歳以上、ECOG PS 0-2、組織学的に確認された食道、胃、食道胃接合部の腺癌、手術不能な進行病変、プラチナ製剤とフッ化ピリミジン系薬剤の治療に不応となって6ヵ月以内、十分な臓器機能を有する症例である。

 対象をDocetaxel (75mg/m2 3週毎に静注, 6サイクルまで) と積極的な症状コントロール (active symptom control: ASC) を行う群 (Docetaxel群)、またはASCのみを行う群 (ASC群) に1 : 1に無作為に割り付けた (図1)。層別化因子として、①病変の状況 (局所進行 vs. 転移性)、②病変の部位 (食道 vs. 食道胃接合部 vs. 胃)、③前治療の病勢進行までの期間 (0 vs. 0~3 vs. 3~6ヵ月)、④ECOG PS (0/1 vs. 2)を設定し、治療開始後は最初の18週までは3週毎、それ以降は6週毎に評価を行った。

図1

 主要評価項目はOS、副次評価項目はDocetaxelの奏効率、病勢進行までの期間、毒性、QOL、医療経済評価とした。

 当初の予定症例数は320例であったが、2010年に164例 (OSを3.5ヵ月から5.5ヵ月に改善、80%の検出力と両群5%の有意水準) に設定を変更した。

結果

 2008~2012年に英国の30施設で、168症例 (各群84症例)が登録された。症例の背景因子は両群間で大きな差を認めず、英国の施設のため前治療はECF、ECX、EOXなどが大半を占めていた。Docetaxelの投与は最大6コース (18週) まで行われた (23%が6コースまで投与)。投与中止の理由は、死亡が15%、病勢進行が40%、許容できない毒性が31%であった。

 Docetaxel群の治療効果はPRが7%、SDが46%、PDが43%であった。ASC群については、36%が18週まで観察が可能であり、観察を中止した理由は死亡が38%、化学療法の実施が14%、病勢進行が2%、患者選択が10%であった。

 Grade 3/4の有害事象では、Docetaxel群はASC群と比較し感染症 (19%)、好中球減少 (18%)、発熱性好中球減少症 (7%) などが多かったが、出血、疼痛の頻度はASC群に比べて少なかった。

 OS中央値は、ASC群の3.6ヵ月に対し、Docetaxel群では5.2ヵ月と有意に良好であった (HR=0.67, 95% CI: 0.49-0.92, p=0.01) (図2)

図2

 DocetaxelによるOSの延長効果は、PS 1/2の症例に比べ、PS 0の症例で高かった。病変の部位別では、胃、胃食道接合部、食道すべてのタイプに認められたが、食道胃接合部癌で最も高い効果が得られた。さらに、前治療から2nd-line開始までの期間が3~6ヵ月の症例で最も効果が高かったが、3ヵ月以内の症例や、治療中に病勢が進行した症例でもOSの延長効果を認めた。

 QOLの評価は、EORTC QLQ-C30とQLQ-ST022を用いて行われた。QLQ-C30では機能スケール、全般的QOLなどで両群間に有意な差を認めなかったが、症状スケールにおいて、痛みのスコア (p=0.0008) などはDocetaxel群で有意に良好であった (図3)

図3

結論

 本試験は、欧米の胃癌症例における2nd-lineの重要な臨床試験であり、しっかりとしたQOLの評価を行った最初の臨床試験である。この予後不良な患者群に対して、Docetaxelは機能、症状のスコアを改善し、さらに全般的QOLのスコアを損なうことなく、ASC群に比べて有意にOSを延長した。

 このことから、Docetaxelはプラチナ製剤/フッ化ピリミジン系薬剤に不応となった進行食道・胃腺癌における標準治療と考えることができる。

コメント

 これまで、進行再発胃癌に対する二次治療に関しては、いくつかの成績が報告され、その有用性が示唆されている。今回は医療経済の厳しい英国からの報告で、今年のGastrointestinal Cancers Symposiumで発表されたものにQOLの詳細な解析が追加されていた。その結果によると、全身状態に関する項目、疼痛に関する項目ではDocetaxel群が優れていた。コストに関する報告はなかったが、十分なsample sizeに基づいてOSの延長、QOLの改善効果が示されたため、欧米においても進行再発胃癌に対する二次治療が標準治療として位置づけられるものと思われる。二次治療で使用する薬剤に関しては、韓国で行われた第III相試験3)や、わが国で行われたWJOG4007試験4)の結果から、患者の状態に応じてタキサン系、CPT-11を選択すれば良いものと思われる。

(レポート:坂東 英明 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Thuss-Patience PC, et al.: Eur J Cancer. 47(15): 2306-2314, 2011 [PubMed]
  2. 2) Kang JH, et al.: J Clin Oncol. 30(13): 1513-1518, 2012 [PubMed]
  3. 3) Park SH, et al.: 2011 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4004
  4. 4) Ueda S, et al.: 2012 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4002

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