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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 ACTS-GC試験は、D2リンパ節郭清を行ったstage II/IIIの胃癌症例1,059例を対象に、術後のS-1による1年間の化学療法と手術単独を比較した無作為化比較試験である。5年時点での再発部位の解析がすでに行われているが、再発の頻度は局所、リンパ節、腹膜、血行性再発のいずれも、手術単独群に比べてS-1群で低かった。

 今回は探索的な解析として、再発部位と様々な遺伝子との関連性の解析が行われた。

対象と方法

 患者の同意が得られた829例 (78.3%) のホルマリン固定パラフィン包埋された手術検体を後ろ向きに集積し、検査を行った。フッ化ピリミジン系の代謝経路、成長因子のシグナル経路、アポトーシス、DNA修復などに関係する63の遺伝子の相対的な発現レベルをTaqManTM low-density arrayを用いて、real-time RT-PCRで定量的に解析した。内部標準としてGAPDH、ACTB、RPLP0の平均発現量を用い、遺伝子発現レベルの標準化を行った。

 遺伝子発現と再発との関連については、ACTS-GC試験の5年無再発生存率 (RFS: recurrence-free survival) のデータを用いて解析した。

結果

 今回の解析対象になった症例は、背景因子、OS (overall survival) ともに全症例のものと大きな偏りを認めなかった。

 初回再発部位の内訳は、今回の全解析症例で局所が6.8%、リンパ節が21.2%、血行が31.0%、腹膜が41.0%であり、この割合はS-1群でも手術単独群でもほぼ同様であった。また、今回の解析症例ではS-1群の再発が123例 (29.6%)、手術単独群が175例 (42.3%) であったが、それぞれの再発部位で比較すると、HRは局所が0.557、リンパ節が0.507、腹膜が0.595、血行が0.787と、いずれの部位の再発もS-1による化学療法で抑制されていることが示唆された (図1)

図1

 5年間の局所再発に関連する遺伝子としてE2F1、リンパ節再発と関連する遺伝子としてGGH、腹膜再発と関連する遺伝子としてPECAM、血行性再発に関連する遺伝子としてTOP2Aが見出され、これらをCox比例ハザードモデルで解析した (図2)

 その結果、TOP2Aは血行性再発と統計学的に有意な関連を認め、TOP2A-highの症例は有意に無血行性転移再発生存が不良であった (HR=2.353, 95% CI: 1.522-3.568)。GGHはリンパ節再発と統計学的に有意な関連を認め、GGH-highの症例は有意に無リンパ節再発生存が不良であった (HR=1.869, 95% CI: 1.134-3.080)。PECAM1は腹膜再発と統計学的に有意な関連性を認め、PECAM-1 highの症例は有意に無腹膜再発生存が不良であった (HR=2.373, 95% CI: 1.562-3.048)。

図2

 多変量解析では、これらの因子は組織学的な差よりも、独立かつ強力なリスクファクターであった。

結論

 Stage II/IIIの胃癌患者における原発巣のTOP2A、GGH、PECAM1の発現レベルは、それぞれ血行性、リンパ節、腹膜再発の高リスクと関連していた。

コメント

 ACTS-GCバイオマーカー解析の第5報である。今回は各再発形式と関連のある遺伝子に注目し、解析を行った。局所再発は症例数そのものが少なく、データの信頼性 (FDR: false discovery rate) が低いが、リンパ節再発、腹膜再発、血行性再発に関しては信頼性の高いデータが得られた。そのなかでも、今回は再発形式毎に最も発現に差のみられた遺伝子に関して報告した。

 リンパ節再発と関連が示唆されたGGHは葉酸代謝関連酵素遺伝子であり、乳癌においては予後因子となることが報告されている。腹膜再発例で高発現していたPECAM1は接着因子で、血管新生促進作用を有しており、発現増強により細胞の遊走能や転移能が促進されることが知られている。血行性転移と関連があったTOP2AはDNA topoisomeraseであり、細胞増殖に関与するばかりでなく、アンスラサイクリン系抗癌剤の治療標的でもある。乳癌においては予後因子となることが知られているが、HER2と同一染色体上に存在することから共発現する場合があり、Abstract #4021で報告されていたように、化学療法の感受性と関連する可能性も示唆されている。

 このように、今回の結果は生物学的にも裏付けられている結果であるが、臨床応用するには、さらなるvalidationが必要と思われる。将来的にはbiomarker drivenな周術期治療戦略を立案したいものである。

 それにしてもdiscussantのLenz氏の機関銃のようなドイツ語訛りの英語が頭から離れない。

(レポート:坂東 英明 監修・コメント:寺島 雅典)

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