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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 nab-Paclitaxel (nab-P) は単剤で膵癌に有効なことが示されており、Gemcitabine (GEM) との併用療法を検討した第I/II相試験でも有望な結果が報告されている1)。今回は、転移性膵癌に対する1st-lineにおいて、nab-PのGEM単独療法に対する上乗せ効果を検証する第III相試験、MPACT試験の結果が報告された。

対象と方法

 対象は、PS (KPS) ≧70%、stage IVの膵癌を有する初回治療例である。これらの患者をnab-P + GEM群 [nab-P 125mg/m2 + GEM 1,000mg/m2 (day1, 8, 15, q4w)] と、GEM群 [1,000mg/m2 (day1, 8, 15, 22, 29, 36, 43 q8w→day1, 8, 15, q4w)] に無作為に割り付け、増悪するまで投与を継続した。割付調整因子は地域、KPS、肝転移の有無とした。

 主要評価項目はOS、副次評価項目は独立評価委員会判定によるPFS、奏効率である。nab-P + GEM群のGEM群に対するHRを0.769とし、nab-P + GEMの優越性を検証した (両側α4.9%)。

結果

 11ヵ国、151施設から861例が登録された。両群の患者背景に偏りはなかった。

 OS中央値は、GEM群の6.7ヵ月に対し、nab-P + GEM群では8.5ヵ月と有意に良好であった (HR=0.72, 95% CI: 0.617-0.835, p=0.000015)。

 サブグループ解析では、多くのサブグループで、nab-P + GEM群のOSがGEM群に比べて良好であり、特に、KPS 70-80、肝転移あり、転移臓器個数 > 3、CA19-9高値など、予後不良と推測されるサブグループでHRが良好であった。

 PFS中央値はGEM群の3.7ヵ月に対し、nab-P + GEM群では5.5ヵ月と有意に良好であった (HR=0.69, 95% CI: 0.581-0.821, p=0.000024)。独立評価委員会判定の奏効率はGEM群が7%であったのに対し、nab-P + GEM群では23%と有意に良好であった (p=1.1 × 10-10)。

 有害事象による死亡は両群ともに4%、grade 3以上の好中球数減少はnab-P + GEM群が38%、GEM群が27%であった。非血液毒性については、疲労がそれぞれ17% vs. 7%、末梢神経障害が 17% vs. 1%未満であった。両群ともに忍容性は良好であった。

 PET検査による奏効 (metabolic response) の評価が257例で行われ、奏効率はnab-P + GEM群が63%、GEM群が38%であった (p=0.000051)。OS中央値はそれぞれ10.5ヵ月と8.3ヵ月であった (HR=0.71, p=0.0096)。

 CA19-9が20%以上減少した割合はnab-P + GEM群が61%、GEM群が44%、90%以上減少した割合はそれぞれ31%と14%で、nab-P + GEM群で有意に多く認められた (各p<0.0001)。また、治療開始後8週で、CA19-9が20%以上減少した患者のOS中央値はnab-P + GEM群が13.2ヵ月、GEM群が9.4ヵ月 (HR=0.59, p<0.0001)、90%以上減少した患者ではそれぞれ13.4ヵ月と9.8ヵ月であり(HR=0.47, p=0.0053)、nab-P + GEM群で有意に良好であった。

結論

 転移性膵癌に対する1st-lineとして、nab-P + GEM療法はGEM単独療法に比べ、OS、PFS、奏効率のいずれにおいても有意に優れており、忍容性も良好であった。また、PETにおける奏効、CA19-9の減少は予後予測因子であった。

コメント

 2013 Gastrointestinal Cancers Symposiumにおいて報告された内容2)に、今回、若干の追加検討が報告されている。GEM単剤による標準治療に対して、nab-P + GEM療法の優越性が検証された。QOL評価および医療経済についての検討はなされていない。毒性は増強するものの、忍容性はあることから、今後の標準治療となり、大きく期待されるものである。

 これまでにも、S-1、GEMに不耐容の症例に対して、少数ではあったが臨床研究的にPaclitaxel投与が報告されており、今回の結果についても妥当だと思える。さらに、各時期でのOSの結果をみると、治療開始6ヵ月ですでに両群のOSに有意差が生じている (67% vs. 55%, p=0.00074)。つまり、併用療法による強度増強が、急速に進行する膵癌のpopulationに対する効果に寄与しているのではないかとも考えられる。

 本邦における進行膵癌の標準治療はS-1単剤あるいはGEM単剤であるが、急速に進行増大する症例に対してはS-1/GEM併用療法を施行している施設も見かける。今回の結果は、急速な腫瘍増大症例を含めた1st-lineとして期待できるものではないかと考える。一方、FOLFIRINOX3)との位置づけについては、今後検討していかなければならない。

(レポート:中島 貴子 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
  1. 1) Von Hoff DD, et al.: J Clin Oncol. 29(34): 4548-4554, 2011 [PubMed]
  2. 2) Von Hoff DD, et al.: 2013 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #LBA148
  3. 3) Conroy T, et al.: 2010 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4010

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