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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

Abstract #3636

切除不能進行・再発大腸癌に対するRegorafenib : CORRECT試験の年齢別サブグループ解析

Regorafenib (REG) in Progressive Metastatic Colorectal Cancer (mCRC): Analysis of Age Subgroups in the Phase III CORRECT Trial.

 

Eric Van Cutsem, et al.

背景と目的

 大腸癌は65歳未満に比べ、65歳以上の高齢者でより高頻度に認められ、死亡の原因となる割合も高い。米国および欧州の年齢調整大腸癌発症率および死亡率は65歳以下に比べて65歳以上で高く、75歳以上ではさらに高い傾向がみられる1,2)。また、高齢者は高頻度に併存症を抱えており、加齢による臓器機能低下もあるため、全身化学療法に不耐となる可能性がある。これらのことは大腸癌患者では高齢者が許容でき、かつ有効な治療を開発する必要があることを示唆している。

 Regorafenibは経口のマルチキナーゼ阻害薬で、他の標準治療にPDとなった切除不能進行・再発大腸癌患者を対象としたCORRECT試験では、プラセボ群に比べて、OSおよびPFSの有意な改善を認めている3)。しかし、臨床的に問題となる有害事象も高頻度に認めており、主なものは手足皮膚反応 (hand-foot skin reaction:HFSR)、疲労、下痢、高血圧、皮疹/落屑などであった。

 今回は、65歳未満と65歳以上のサブグループ別にCORRECT試験におけるRegorafenibの有効性、耐薬性の解析が行われた。あわせて、重要な有害事象と用量調節については、65歳以下、65~74歳、75歳以上の3群に分けてサブグループ解析が行われた。

対象と方法

 CORRECT試験は、国際多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験である。すべての有効な治療に対してPDとなった大腸癌患者をRegorafenib群 (160mg、1日1回投与 : 505例) またはプラセボ群 (255例) に無作為に割り付け、それぞれ3週投与・1週休薬を1サイクルとして、繰り返し投与した。投与量は有害事象によって調整可能とした。

 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効率、病勢コントロール率および安全性である。本解析では、年齢別の効果、安全性、投与量について報告された。

結果

 OS、PFSについて、65歳未満と65歳以上でサブグループ解析を行ったところ、65歳未満におけるOS中央値はプラセボ群の5.0ヵ月に対してRegorafenib群では6.7ヵ月 (HR=0.716)、65歳以上では5.6ヵ月に対して6.0ヵ月 (HR=0.856) と、両サブグループともにRegorafenib群で長い傾向がみられた (図1)

図1

 PFSについても、HRは65歳未満で0.418,65歳以上では0.651とOSとほぼ同様の傾向を認めた (図2)

図2

 Regorafenib群におけるgrade 3以上の有害事象の発現頻度は、65歳未満が52%、65~74歳が57%、75歳以上が66%と、年齢別のサブグループ間で大きな差は認めなかった (表1)

表1

 65歳未満と65歳以上のRegorafenibの1日投与量平均値は、それぞれ146.7mgと147.9mg、投与継続期間中央値はそれぞれ7.6週間、7.1週間とほぼ同様であった (表2)。有害事象による用量調節の頻度も65歳未満が76%、65~74歳が73%、75歳以上が84%と、サブグループ間で大きな差は認めなかった (表3)

表2 / 表3

Abstract #3637

切除不能進行・再発大腸癌に対するRegorafenib : CORRECT試験における時間的プロファイルの検討

Time Profile of Adverse Events (AEs) from Regorafenib (REG) Treatment for Metastatic Colorectal Cancer (mCRC) in the Phase III CORRECT Study.

 

Axel Grothey, et al.

 Abstract #3637では、有害事象の時間的プロファイルが報告された。

 手足皮膚反応 (HFSR) と疲労の発現頻度はサイクル1で最も高く、サイクル2~6では頻度が下がり、サイクル7~8ではさらに頻度が低下していた。高血圧、皮疹/落屑はサイクル1で最も頻度が高く、サイクル2~8では低いレベルで維持された。下痢はサイクル1~6において一定の割合で認められ、サイクル7~8では認められるものの、頻度が低下した (図1)

図1

 また、薬剤強度 (dose intensity) についても解析が行われたが、Regorafenibの平均投与量はサイクル1で最も高く、サイクル2~3で有害事象により調整を行うため徐々に減少し、サイクル3~8では比較的安定していた。

図2

結論

 CORRECT試験の年齢別サブグループ解析 (Abstract #3636) において、Regorafenibはプラセボと比較して65歳未満、65歳以上ともにOS、PFSを改善した。また、Regorafenibの有害事象の頻度、継続期間、投与量、用量調節の頻度は年齢別で大きな差を認めなかった。これらのデータから、Regorafenibは実臨床でよく経験する65歳以上の高齢者にも、明らかな耐薬性を考慮せずに投与可能であることが示唆された。

 一方、有害事象の時間的プロファイルの検討からは (Abstract #3637)、Regorafenibに特徴的な有害事象は治療の初期に起こり、頻度、重篤度ともにサイクル1でピークとなることが明らかになった。また、Regorafenibによる毒性の蓄積は認めなかった。このため、有害事象に対する投与量の減量がサイクル2~3で必要になるが、サイクル4以降では薬剤強度は安定していた。

コメント

 高齢者に対する医療の開発は、高齢化社会を迎える現代における最重要課題の1つである。今回、Regorafenibの年齢別サブグループ解析の結果が報告された。それによると、確かに65歳以上の症例でも効果が認められてはいるが、PFSのHRは65歳未満の0.418に対して65歳以上では0.651であり、高齢者群で効果が低下している傾向があることは否定できない。OSは多病死などの影響を受けるとはいえ、65歳以上でのHRは0.856であり、MSTの差は0.4ヵ月 (12日) に過ぎない。

 有害事象に関しては年齢による差を認めなかったが、本薬剤が3rd-line以降に用いられることを考えると、高齢者に対する実地臨床での使用に関しては若干の疑問が生じざるを得ない。化学療法に限らず、高齢者に対する侵襲的治療は、今後研究者と行政で解決していかなければならない重要な課題であると考えられる。

 一方、本年のGastrointestinal Cancers Symposium4) でも報告されていた有害事象の経時的な推移に関しても発表され、Regorafenibは有害事象に注意が必要な薬剤であるが、ほとんどの有害事象は1サイクル目に強く発現し、適正な減量がなされれば4サイクル以降は安定した治療が可能であることが示されていた。すなわち、初回治療時に最も慎重な経過の観察が必要であるということが再確認されたものと思われる。

(レポート:坂東 英明 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) SEER Stat Fact Sheets: Colon and Rectum.
  2. 2) World Health Organization. Globen 2008
  3. 3) Grothey A, et al.: Lancet. 381(9863): 303-312, 2013 [PubMed]
  4. 4) Grothey A, et al.: 2013 Gastrointestinal Cancers Symposium, abst #467

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