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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 Neuroblastoma Rat Sarcoma (NRAS ) 遺伝子は、1番染色体上に位置する RAS ファミリーに属する遺伝子である。NRAS 遺伝子変異は大腸癌の3%前後に認められ1)KRASBRAF 遺伝子変異と相互排他的に生じる。いくつかの既報において、NRAS 変異を有する大腸癌は予後不良で、抗EGFR抗体に耐性であることが示されている。

対象と方法

 2009~2012年に自施設でKRAS 変異 (codon 12, 13, 61)、BRAF 変異 (codon 600) 測定が行われ、野生型と判定された切除不能進行・再発大腸癌患者771例を対象に、NRAS 変異 (codon 12, 13, 61) の測定を行い、NRAS 変異の有無が予後因子ならびに抗EGFR抗体の効果予測因子となるか否かを後ろ向きに検討した。

結果

 771例中、KRAS 変異型が384例 (50%)、BRAF 変異型が69例 (9%)、NRAS 変異型が47例 (6%)、NRAS / KRAS / BRAF すべて野生型が271例 (35%) であった。NRAS 変異部位の内訳は、codon 12が14例 (30%)、codon 13が6例 (13%)、codon 61が27例 (57%) であった。

 遺伝子変異別にOSを比較するとNRAS 変異型症例のOSはすべて野生型の症例に比較して有意に不良 (HR=0.60, 95% CI: 0.29-0.99, p=0.045)、BRAF 変異型と比較すると有意に良好であり (HR=1.75, 95% CI: 1.073-2.87, p=0.03)、KRAS 変異型とは差を認めなかった (HR= 0.86, 95% CI: 0.51-1.43, p=0.61)。

 また、NRAS 変異型47例のうち、CPT-11不応後に抗EGFR抗体 ± CPT-11を投与した8例について、抗腫瘍効果をRECISTで評価したところ、奏効例を認めなかった。

 さらに、本試験の結果を含めたpooled analysisでも、奏効例は35例中1例 (2.9%) のみであった

結論

 本試験において、NRAS 変異は切除不能進行・再発大腸癌の6%に認められ、NRAS / KRAS / BRAF 野生型に比較して予後不良であった。また、NRAS 変異型大腸癌に対する抗EGFR抗体療法は効果が乏しい可能性が示唆された。

コメント

 自施設において771例の解析を行なったところ、NRAS 変異群はNRAS / KRAS / BRAF 全部が野生型の群に比べると予後不良であり、NRAS 変異群は圧倒的に予後不良であることが示された。また、NRAS 変異群のうち、抗EGFR抗体薬を使用した8例の中には奏効例がなく、自施設例を加えたpooled analysisでも、奏効例は35例中1例 (2.9%) のみであり、効果は期待できないことが示唆された。

 NRAS 変異群が予後不良因子であることは、既報からも間違いなさそうであるが、抗EGFR抗体薬における効果予測因子といえるかどうかは、この研究のみでは判断困難であり、他研究の報告や、可能であれば前向き試験での検証が欲しいところである。

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:小松 嘉人)

Reference
  1. 1) Irahara N, et al.: Diagn Mol Pathol. 19(3): 157-163, 2010 [PubMed]

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