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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 Regorafenibはマルチキナーゼ阻害剤であり、様々なキナーゼ蛋白の活性を阻害する1)。主なキナーゼとして、腫瘍血管新生に関わるVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、TIE-2、腫瘍形成に関わるKIT 、RET、RAF-1、BRAFBRAF V600E、腫瘍微小環境に関わるPDGFR、FGFRがあげられる。

 第III相試験のCORRECT試験では、標準治療のない3rd-line治療以降の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象としてRegorafenibとプラセボの比較を行い、OS、PFSともにRegorafenib群で有意な改善を認めた2)。今回の後ろ向きな解析は、Regorafenibの作用機序や治療効果予測または予後予測となり得る蛋白バイオマーカーについて解析することを目的として実施された。

対象と方法

 治療開始前の患者から血漿サンプル (n=611) を集め、Regorafenibと関連性が期待される蛋白15個について、multiplex immunoassayもしくはenzyme-linked immunosorbent assayを用いて定量を行った。

 バイオマーカーはすべてlowまたはhighの二分変数で示し、(1) Median cutoff method、(2) Best-fit cutoff method、(3) Receiver operating characteristic (ROC) curve methodの3つの方法で解析した。

 本解析の主たる目的は、OS、PFSにおけるRegorafenibの効果がそれぞれの治療前のバイオマーカーのレベルで治療効果予測可能かを検討することであった。それぞれのバイオマーカーの治療効果予測因子および予後因子としての価値は、Cox比例ハザードモデルとKaplan-Meier法で解析した。なお、これらの解析は探索的なものであり、p値は多重検定などにより調整を行っておらず、結果はあくまで参考として考えるべきである。

結果

 バイオマーカー解析を行ったサブグループのRegorafenib群とプラセボ群のハザード比はOSで0.72、PFSで0.48であり、全体のハザードと大きな差を認めなかった。解析された15の血漿蛋白バイオマーカーについて以下に示す (表1、図1)

表1

図1

① 治療効果予測のバイオマーカー

 単変量解析では、治療開始前のsTIE-1、VWFがRegorafenibの臨床的な活性と関連する傾向を認め、今回行った解析方法で少なくとも1つは有意な相互作用が認められたが (表2)、多変量解析ではsTIE-1、VWFともに有意な効果予測因子としては選択されなかった。

表2

② 予後予測のバイオマーカー

 単変量解析で15のバイオマーカーについて調べると、6つの蛋白 (ANG-2, IL-6, IL-8, M-CSF, PIGF, sTIE-1) では予後的な価値が示唆され (表3)、多変量解析ではOSについてはIL-8とPIGFが独立予後予測因子として選択され、PFSについてはIL-8のみが独立予後予測因子として選択された。

表3

結論

 ベースラインのsTIE-1とVWFの蛋白レベルは、Regorafenibの臨床効果の予測因子となり得る可能性が示唆されたが、さらなる臨床的なバリデーションが必要である。また、sTIE-1、VWFともにOS、PFS両方での効果予測因子としての意義は見いだせていないこと、3つのカットオフ法ですべて有意になっている訳ではないこと、CORRECT試験自体はバイオマーカーに関連する疑問を証明する検出力を持っていないこと、検定の多重性を調整した後の値は有意差がなくなったことなどに注意しなければならない。

 治療開始前の様々な蛋白の血漿レベルが予後予測因子の候補として同定され、具体的にはANG-2、IL-6、IL-8、M-CSF、PIGF、sTIE-1があげられた。多変量解析の結果では、PIGFはOSに対する有意な予後予測因子として、IL-8はOS、PFSに対する予後予測因子として選択された。IL-8は過去に報告されたとおり、大腸癌の予後予測因子であるという結果が得られた。

コメント

 本報告では、Regorafenibの作用機作の解明と、予後因子、効果予測因子を検索することを目的とし、multiplex ELISAを用いて血漿中の15種類の蛋白濃度の解析が行われた。その結果、TIE-1とVWFがRegorafenibの効果予測因子として、IL-8が独立予後予測因子として選択された。しかし、これらの結果はcut-off値の設定により変動することや、また多重性の検定に関する問題も指摘されており、普遍的結果として取り扱うには様々な問題がある。

 今回、様々なバイオマーカーに関する報告がなされていたが、検出・解析方法の確立 (内的妥当性の検証) の後に、外的妥当性を検証するための解析方法、臨床試験の立案が今後の大きな課題になるものと思われた。

(レポート:坂東 英明 監修・コメント:寺島 雅典)

Reference
  1. 1) Wilhelm SM, et al.: Int J Cancer. 129(1): 245-255, 2011 [PubMed]
  2. 2) Grothey A, et al.: Lancet 381(9863): 303-312, 2013 [PubMed]

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