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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 RAS 野生型大腸癌に対する抗EGFR抗体療法は有効な治療であるが、高感度法でのみ検出可能なKRAS 変異や、抗EGFR抗体投与による獲得変異としてのKRASEGFR 変異が、抗EGFR抗体の耐性に関与するのではないかと考えられるようになってきた。そこで、抗EGFR抗体投与歴を有する患者の血中遊離DNAから検出されるKRASEGFR 遺伝子変異の意義を明らかにするため、本研究が行われた。

対象と方法

 MD Anderson Cancer CenterにてKRAS 野生型と診断され、抗EGFR抗体を含む化学療法に抵抗性となった切除不能進行・再発大腸癌患者56例を対象とした。登録後に患者の血液から血漿中遊離DNAを抽出し、BEAMing法によりKRAS codon 12, 13, 61, 146、EGFR S492R変異の有無を測定した。治療前の腫瘍組織検体からのシークエンス法を用いた解析では変異が検出されず、抗EGFR抗体投与後の血漿サンプルで変異が検出されたものを獲得変異と定義した。

結果

 56例中24例 (43%) にKRAS の獲得変異が、4例 (7%) にEGFR S492R変異が認められた。また、KRAS 遺伝子変異部位は初期変異と獲得変異で分布が異なり、獲得変異ではcodon 61, 146変異が比較的高頻度に認められた。腫瘍量と変異アリルの割合は相関を認めなかった。また、56例中8例で複数箇所のKRAS 変異を認め、3例でEGFR S492R変異とKRAS 変異を同時に認めた。

 また、獲得変異のアリル割合は、前治療の抗EGFR抗体投与終了からのインターバルが長い症例ほど獲得変異アリル割合が低い傾向にあった。

 なお、少数例の検討であるが、獲得変異出現例は、前治療の抗EGFR抗体療法のPFSが長い傾向にあった (中央値6ヵ月 vs. 9ヵ月)。

結論

 抗EGFR抗体に耐性となった大腸癌患者の血漿中遊離DNAから、KRAS およびEGFR 遺伝子変異を43%に認めた。KRAS 遺伝子変異重複例が認められることや、変異部位の分布など初期変異と獲得耐性で変異の意義が異なる可能性が示唆された。

コメント

 治療前の腫瘍組織検体からの解析では検出されず、抗EGFR抗体による治療後に耐性となった際に採取した血漿サンプルの解析にて、その43%に何らかの遺伝子変異を認めた。変異は、重複変異や通常と分布が違ったりしており、その意味合いは不明である。また、獲得変異のうちの少数例の解析では、変異の無い症例に比し、抗EGFR抗体薬のPFSが長い傾向がみられた。これは抗EGFR抗体への曝露が長かったので変異を獲得したのか、獲得変異のあるものは、そうでないものに比し効果が高いのか、今回の検討では明らかにされていない。従来、抗癌剤治療中の遺伝子解析は難しいものと考えられてきたが、本学会でも非常に報告の増えたliquid biopsyによる血漿中遊離DNAからの遺伝子解析により、半数に獲得変異が生じ、様々なHeterogeneityがあることがわかり、抗EGFR抗体使用後の耐性獲得に目を向けた、今後の研究に繋がりそうな有意義な研究であるものと思われる。

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:小松 嘉人)

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