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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 Hepatocyte growth factor (HGF) のレセプターであるチロシンキナーゼのMETは、大腸癌の30?70%に過剰発現が認められ、大腸癌細胞の増殖、転移に関わっており、予後不良因子であると報告されている1)。一方、Cetuximab (Cmab) に対する耐性は、METを含むEGFR以外の受容体型チロシンキナーゼの活性化が関与している2)。本試験では、MET阻害剤であるARQ197 (Tivantinib) のCmab + CPT-11に対する上乗せ効果を2nd-line治療において比較検討した。

対象と方法

 対象は1st-line全身化学療法に不応となったPS 0/1、KRAS 野生型の切除不能進行・再発大腸癌患者であり、試験治療 (ARQ197) 群 (Tivantinib: 360mg bid, Cmab: 500mg/m2 14日毎, CPT-11: 180mg/m2 14日毎) とプラセボ (P) 群 (Cmab + CPT-11 : 同様) に無作為に割付された (割付調整因子 : PS、1st-lineにおけるbest response)。

 主要評価項目はPFS (progression-free survival) である。

結果

 本試験は米国、ロシア、フランス、イタリア、ドイツで開始されたが、150例が登録された時点で登録は中止された (理由は、米国以外では1st-lineでCmabを使うことが多く、試験登録の進捗が遅かったためである)。無作為化された症例数は122例であり、患者背景において性差、PSでやや偏りを認めた。前治療における薬剤使用割合は、ARQ197群 vs. P群において、fluoropyrimidies: 100% vs. 97%、L-OHP: 78% vs. 84%、Bevacizumab: 55% vs. 44%、 CPT-11: 17% vs. 19%であり、前治療でCR/PR/SDを示した患者はそれぞれ73.3%、61.4%であった。

図1

 原病の増悪による治療中止例はARQ197群54.8%、P群46.7%であり、有害事象による治療中止例はそれぞれ19.4%、10.0%であった。

 観察期間中央値15.9ヵ月時点でのITT populationにおけるPFSは、両群で有意差を認めなかった (HR=0.85, 95% CI: 0.55-1.33, p=0.38: 中央値ARQ197群 vs. P群: 8.3ヵ月 vs. 7.3ヵ月)。

図2

 OSにおいても両群で有意差を認めなかった (HR=0.70, 95% CI: 0.42-1.17, p=0.25: 中央値ARQ197群 vs. P群: 19.8ヵ月 vs. 16.9ヵ月)。

 奏効率はARQ197群 vs. P群: 45.0% vs. 33.3%であり、腫瘍縮小強度はARQ197群で強い傾向にあった。

図3

 Grade 3以上の有害事象は両群間でほぼ同等であり、下痢 (13% vs. 9%)、好中球減少 (19% vs. 10%) がARQ197群で高かった。

 サブ解析においては、女性、L-OHP前治療歴ありのサブグループで、PFS、OSともにHRが良好な傾向にあった。

 中央判定の免疫染色におけるバイオマーカー解析では、MET高発現 (2/3 + の細胞が50%以上) は67例であり、両群間でPFS、OSともに有意差を認めなかった。一方、MET低発現例は23例と少数であったが、PFSはARQ197群で有意に延長し (HR=0.22, 95% CI: 0.06-0.80, p=0.01)、OSには有意差は認めなかった。血清HGF濃度は115例で測定され、平均値で2群に分けて解析されたが、PFS、OSともにHGFの高値例、低値例のいずれにおいても有意差は認められなかった。

図4

結論

 ARQ197は、大腸癌に対する2nd-line治療においてCmab、CPT-11と併用すると有望であると考えられたが、本試験においてはバイオマーカー検索などが不十分であるため、結論は出せない。

コメント

 更なる生存の延長を求めるためにも、新たな分子標的薬の登場が待たれている。途中解析となった試験であるが、残念ながら主要評価項目であるPFSの優越性を示すことはできなかった。後解析において、前治療をL-OHPの症例群やMET低発現群等に良い傾向は認められるものの、今後第III相試験を成立させるに至る根拠としては十分なものではない。開発継続のために、さらにARQ197の特性の解明と、個別化医療に求めるマーカー等の検索が必要である。

(レポート:中島 貴子 監修・コメント:佐藤 温)

Reference
  1. 1) Takeuchi H, et al.: Clin Cancer Res 9: 1480-1488, 2003
  2. 2) Walther A, et al.: Nat Rev Cancer 9: 489-499, 2009

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