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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景

 L-OHPによる蓄積性の末梢神経障害は、治療の早期中断につながるが、末梢神経障害の軽減にCaMgの静脈内投与が有用であることが、非無作為化試験や比較的小規模の無作為化試験であるN04C7試験1) で報告されている。しかし、N04C7試験 (CONcePT試験) は、CaMg群の奏効率が有意に低かったことを受けて最終結果に到達せずに終了した。

 そこで今回、CaMgの静脈内投与がL-OHPに起因する感覚性末梢神経障害の減少につながるか否かを検証する目的で、比較的大規模な二重盲検試験であるN08CB試験が実施された。

対象と方法

 結腸癌の術後補助化学療法として、12サイクルのFOLFOXを施行する予定の362例を対象として、L-OHPの投与前後にCaMg (1g グルコン酸カルシウム/1g 硫酸マグネシウム) を静脈内投与する群 (CaMg/CaMg群 : 118例)、L-OHPの投与前後にプラセボを投与する群 (Placebo/Placebo群 : 119例)、L-OHPの投与前にCaMg、投与後にプラセボを投与する群 (CaMg/Placebo群 : 116例) の3群に無作為に割り付け、末梢神経障害への影響を評価した。

 主要評価項目は、12サイクル施行中におけるEORTC QLQ-CIPN20による評価スコアの時間‐曲線下面積 (AUC)、副次評価項目はCTCAE 4.0およびL-OHPに特化した神経毒性スケールでの評価とした。さらに、急性神経毒性の評価 (0~10点でスコア化) をL-OHP投与後5日間ごとに行った。

結果

 解析対象はCaMg/CaMg群110例、Placebo/Placebo群106例、CaMg/Placebo群110例であった。主要評価項目であるEORTC QLQ-CIPN20スコアの時間‐曲線下面積 (AUC) は、3群間に有意差はなかった (図1)。また、grade 2の末梢神経障害を発現するまでの期間も3群間に有意差はなかった (p=0.3383)。

図1

 急性神経毒性については、冷感過敏 (図2)、冷たいものを飲み込みにくい (p=0.4274)、筋痙攣 (p=0.5501) などに有意な群間差はなかったが、ものを飲み込みにくい (p=0.0366) のみ、CaMg/CaMg群のスコアが有意に低かった。

図2

 L-OHPの平均投与量 (p=0.11) やfull doseを投与した患者の割合の推移 (図3) などは、3群間に有意差はなかった。

図3

結論

 本試験において、CaMg はL-OHPによる蓄積性の感覚性末梢神経障害を軽減しなかった。したがって、L-OHPの末梢神経障害を軽減する目的でのCaMgの投与は推奨されない。

コメント

 L-OHPの神経毒性予防におけるCaMgの静脈内投与の有効性を十分な観察期間をおいて検証した初めての大規模な無作為化比較試験である。L-OHPの神経毒性については、その代謝産物であるシュウ酸塩がカルシウムイオンの動きを阻害し、神経細胞の電位依存型ナトリウムチャネルを変化させることが原因との説がある2)。そのため、CaMgにL-OHPの神経毒性の予防効果が期待できると考えられ、いくつかの臨床試験が行われてきた。しかし、各々の症例数が少なく、成績は様々であり、その結果は一定でなかった。近年、それらを合わせたメタ解析によって慢性の神経障害に対してのみCaMgに予防効果があったと報告された3)。しかし、そこで解析されている4つの臨床研究に登録された症例をすべて合わせても222例であり、本試験の登録症例数に及ばない。

 本試験に先立って行われたN04C7試験では、CaMgによるL-OHPの抗腫瘍効果減弱の可能性が示唆され、早期に試験が中止された。そして本試験は、対象を術後補助化学療法施行例に設定して、その完遂を目指したものである。本試験およびN04C7試験1)の結果から、L-OHPの神経毒性軽減を企図したCaMg投与の意義はないと言える。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Grothey A, et al.: J Clin Oncol. 29(4): 421-427, 2011 [PubMed]
  2. 2) Grolleau F, et al.: J Neurophysiol. 85(5): 2293-2297, 2001 [PubMed]
  3. 3) Ao R, et al.: Exp Ther Med. 4(5): 933-937, 2012 [PubMed]

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