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GI cancer-net 海外学会速報レポート 2013年6月 シカゴ

背景と目的

 90%以上のGISTはKIT 遺伝子もしくはPDGFRA遺伝子の変異により発生する。これらのキナーゼを阻害するチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) の登場により、転移性GISTのOS中央値は6ヵ月未満から5年に延長した。しかし、85%以上のGISTで新たな体細胞変異を獲得しImatinib、Sunitinibに耐性となることが報告されており、獲得耐性の機序解明や獲得耐性に対する治療開発が課題となっている。

 一方、頻回の腫瘍生検は侵襲性が高く、不均一な腫瘍の一部のみが採取されるという問題点がある。血漿中遊離DNAには、癌組織由来のDNAが多く含まれることが知られている。

 そこで、GRID試験に登録された患者の治療前血液検体を用いて、遺伝子変異の有無と治療効果との相関が検討された。

対象と方法

 GRID試験は、Imatinib、Sunitinib耐性のGIST患者をRegorafenib群 (160mg/日投与) またはプラセボ群に2 : 1の割合で無作為に割り付けた二重盲検比較第III相試験である。3週投与・1週休薬を1サイクルとして、病勢進行または忍容不能な副作用が生じるまで治療を継続した。

 GRID試験の登録患者から得た治療前の血漿検体、ならびに試験登録前に測定された腫瘍組織、臨床情報が解析に用いられた。また、血漿DNAを用いた遺伝子変異解析はBEAMing法、組織検体はDNAシークエンシングにより行われた。

結果

 GRID試験の登録患者199例のうち、血漿検体163例 (82%)、腫瘍組織検体102例 (51%) が解析に用いられた。KIT 変異の割合は、血漿検体が58%、組織検体が66%であった。

 組織検体ではexon 9の変異が18%、exon 11が43%、exon 13/14と17/18 (secondary KIT mutation) は12%であった (表1)。一方、血漿検体ではexon 11の変異は12%と低く、exon secondary KIT mutationが47%を占めた (ただし、exon 11の欠失はBEAMing法では検出できない)。

表1

 血液検体と組織検体の両方が得られた症例では、両検体の遺伝子変異の一致率は84%であった (表2)

表2

 組織検体、血液検体での遺伝子変異の有無とRegorafenibの治療効果との相関について検討したところ、全てのサブグループでRegorafenibの治療効果が認められた (図1、2)

図1

図2

 さらなる追加解析を行ったところ、secondary KIT mutationを認めた症例はPFSが短い傾向にあった (HR=1.82, p=0.05)。また、exon 9変異例は他と比較して前治療のImatinibの治療期間が短い傾向があり (HR=2.02, p=0.002)、Sunitinibの治療期間は長い傾向にあった (HR=0.54, p=0.005)。KRAS 変異例では、前治療のTKIに奏効していなかった。

結論

 KIT 変異はTKIの耐性に関わるとされるsecondary KIT mutationも含め、BEAMing法によって血漿DNAからでも検出が可能であり、血漿検体と組織検体での遺伝子変異の一致率は良好であった。

 また、Regorafenibの治療効果は、遺伝子変異の有無に関わらず認められた。

コメント

 GRID試験に登録された患者において、組織検体と血漿DNAからのKIT 遺伝子変異の測定がなされた。得られたKIT 遺伝子変異毎の治療効果との相関を調べると、全てのサブ解析で効果が得られ、RegorafenibはKIT 遺伝子変異の有無によらず、効果を発揮することがわかった。

 GISTは二次耐性が生じやすいため、経時的に組織を採取し、遺伝子変異を測定することができれば、その都度、感受性のある薬剤に変更するなどの治療法が考えられる。生体から常に組織を採り続けることは困難であるが、血漿DNAで測定するという、いわゆるliquid biopsyであれば、その可能性が高まる。組織検体と血漿DNAの両方の検体が得られた症例での変異の一致率は84%と高いものであったことから、liquid biopsyで経時的に二次遺伝子変異の出現を測定することで、結果に応じた個別化治療も可能となるかもしれない。

(レポート:谷口 浩也 監修・コメント:小松 嘉人)

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