演題速報レポート

背景

 腹腔鏡下手術 (LAP) は、開腹手術 (OP) と比較して低侵襲性や整容性などの利点があるが、我が国では完全腸間膜切除 (日本における定型術式) が必要な進行大腸癌に対するLAPの長期生存成績はいまだ明らかになっていない。 我々はLAPがOPと比較して術後合併症が少なく、OS (overall survival) を損なわないことを検証するための非劣性試験を企画した。ここでは、術後合併症を含めた短期成績を報告する。

方法

 日本で技術認定がなされた外科医が所属する30施設が参加した。適格基準は病理組織学的に大腸癌と診断された患者で、腫瘍が回盲部、上行、S状または直腸S状部に位置し、他臓器浸潤のないT3以深浸潤、リンパ節転移N0?2かつ M0、腫瘍最大径 ≦8cm、年齢20-75歳の症例とした。対象患者は術前にOP群およびLAP群に無作為割付けされた。なお、病理学的にstage IIIと証明された症例には、術後補助化学療法として5-FU/l-LV療法が行われた。主要評価項目はOSとし、必要な症例数は1,050例と設定された。

結果

 2004年10月から2009年3月までの期間に1,057例が無作為割付けされた (OP群528例、LAP群529例: )。LAP 群でOPへ移行を要した症例は29例 (5.4%: 技術的理由2.3%、開腹の適応2.8%、合併症0.4%) であった。

 LAP群ではOP群と比較して出血量が少なかったが (中央値 30mL vs. 85mL, p<0.0001)、手術時間は52分延長していた (中央値 211分 vs. 159分, p<0.0001: 表1)。

表1

 根治度は郭清されたリンパ節個数によって評価されたが、両群間に差はなかった (p=0.41)。 術後経過ではLAP群はOP群と比べて消化管機能の回復が早く、在院期間も短かった (ともにp<0.0001: 表2)。

表2

 創部関連合併症の発現はLAP群で有意に低く (p=0.007)、その他の合併症と在院死亡率には2群間で差は認められなかった (表3)。

表3

結語

 Stage II/IIIに対する腹腔鏡下完全腸間膜切除は安全に施行可能であり、郭清リンパ節数から判定した根治度にも開腹手術と差がないことが示された。2014年に予定されている初回解析によってOSにおけるLAPの非劣性が証明されれば、LAPは大腸癌に対する新しい標準療法となりうる。

コメント

 腹腔鏡下に行う大腸切除術は術後の回復が早く、大腸手術を対象として開発された術後回復強化プログラム (Enhanced Recovery After Surgery: ERAS) でも推奨されている術式である。ただし、開腹手術に劣らない予後が得られるという質の高いevidenceがないため、我が国の大腸がん治療ガイドラインではstage 0、I症例に限り推奨されている。
 本演題は、stage II/IIIの大腸癌に対して腹腔鏡下手術が標準術式となりうるかを検証する無作為化比較試験の早期成績報告である。欧米で行われた無作為化比較試験では、既に大腸癌に対する腹腔鏡手術により開腹術と劣らない治療成績が得られていると報告されている1)。しかし、我が国で開腹手術を受けた大腸癌症例の予後は、欧米の治療成績をはるかに凌駕してきたことから、我が国における無作為化比較試験の結果が必要なのである。開腹手術と比較して出血量が少ないことや術後の在院日数が短いことについては、既に国内外から多数の報告があり、手術部位感染が少ないことも同様である。腹腔鏡下手術では繊細な血管処理が可能で、横行結腸を除いた結腸では開腹手術に劣らないリンパ節郭清を施行できる。本臨床試験の予後の報告が待たれる。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Bai HL, et al: World J Gastroenterol. 16(39): 4992-4997, 2010

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