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演題速報レポート

Colorectal Cancer
Abstract #3530
切除不能進行・再発大腸癌に対するPanitumumab単剤療法無作為化比較第III相試験における、腫瘍縮小予測バイオマーカーとしてのKRAS を超える遺伝子変異の検索
Evaluation of gene mutations beyond KRAS as predictive biomarkers of response to panitumumab in a randomized, phase III monotherapy study of metastatic colorectal cancer (mCRC).
Kelly S Oliner, et al.
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背景
 PanitumumabはEGFRに対する完全ヒト型モノクローナル抗体であり、欧州ではKRAS 野生型の化学療法不応大腸癌に対して単剤での使用が承認されている。
 KRAS 変異は切除不能進行・再発大腸癌に対する抗EGFR抗体薬の腫瘍縮小 (奏効) において、負のバイオマーカーとして確立している。 この解析の早期の結果はすでに報告されている1,2)。今回、OlinerらはPanitumumabを投与する際に腫瘍縮小を予測しうる他の遺伝子変異の有無を、Pyrosequencing 454という次世代のシークエンス技術を用いて検討した。
対象と方法
 今回の報告では、Panitumumab + best supportive care (BSC) とBSCを比較した無作為化比較第III相試験(20020408試験)において保管されている、ホルマリン固定パラフィン包埋検体を用いてシークエンスを行い、遺伝子変異と有効性の関係を解析した。BSC群に割り付けられた症例は増悪後、任意でPanitumumabの追加試験 (20030194試験) に登録することが可能であった。
 既にKRAS 変異 (codon 12/13) と治療効果については解析結果が報告されているが1,2)、その際に使用した腫瘍検体を用いて、さらにKRAS (codon 61)、NRAS BRAF PIK3CA PTEN TP53EGFRAKT1Beta-cateninの遺伝子変異をシークエンスした。
結果
 20020408試験では463例がPanitumumab + BSC群 (231例) とBSC単独群 (232例) に無作為割付され、BSC単独群のうち、176例は20030194試験に登録された。両試験でPanitumumabが投与された症例のうち、288例の腫瘍検体に対して検索を行った。
 各遺伝子変異率はKRAS codon 12/13で42% (117/280)、KRAS codon 61で2.5% (7/284)、BRAF 7.4% (18/243)、NRAS 5.0% (14/282)、PIK3CA 9.4% (24/255) であり、過去の報告と近似した結果であった。
Mutation Rates in 288 CRC Tumors

 Panitumumab単剤を投与された症例における各遺伝子変異別のRR (response rate) は、KRAS codon 12/13/61のいずれにも変異がない野生型の症例では15.9%、いずれかに変異を有する症例では0.9%と、変異型においては過去の報告同様、奏効が期待できない結果であった。また、KRAS 野生型のなかでNRAS BRAF に変異を有する症例も、同様に奏効がみられなかった。

Response Rate to Panitumumab Monotherapy
 PFS (progression-free survival) に関しては、過去の報告通り、KRAS 変異型の症例でPanitumumabの上乗せ効果がみられず、さらに今回の解析ではNRAS 変異型の症例も同様にPanitumumabの上乗せ効果を認めなかった。
PFS Hazard Ratios by Tumor Genotypes
 また、KRAS 野生型の症例においてPTEN PIK3CA の変異がPFSに与える影響を検討したが、これらの遺伝子変異はPanitumumabの治療効果に影響を与えていなかった。
PFS Hazard Ratios for Gene Combinations
結論
 454 Pyrosequencingという次世代のシークエンス技術を用いて、無作為化比較第III相試験に登録した症例の腫瘍検体における複数の遺伝子変異状況を評価した。本試験でみられた各種遺伝子変異率は過去の切除不能進行・再発大腸癌における報告と一致したものであった。
 NRAS のような他のRAS Familyに変異を有する症例ではPanitumumab治療の有効性は得られないかもしれない。KRAS codon 61、NRAS BRAF の変異率は低く、これらの遺伝子変異の効果予測における意味合いを検証するさらなる研究が必要である。
コメント
 Panitumumab、Cetuximabといった抗EGFR抗体薬の効果予測因子として、KRAS 変異の関係が明らかにされ、すでにその測定が一般診療に導入されている。今回の報告は、KRAS 以外にさらに効果予測因子となる遺伝子変異があるかどうかについて、第III相臨床試験で得られた検体をサンプルに解析・報告したものである。
 結論は、NRAS BRAF がその候補となるが、発現頻度がとても低かった。これは生物学的見地からの研究としては興味あるものの、臨床的見地からみると変異発現率の低いものに対する測定実施の意義を見い出すのは難しい。効果予測因子を期待しての遺伝子変異の検索研究の報告は本学会内でもいくつかあり、いずれも類似した結果であった。今後もこのような検索研究は続けられていくが、癌細胞における増殖シグナル経路はあまりに複雑であり、臨床的に意義のある遺伝子変異の検出は困難を極めることは容易に想像できる。また一方で、情報管理の問題が付きまとうものの、今後新たな遺伝子解析を実施するために、サンプルの蓄積が重要となることも理解される。
(レポート: 結城 敏志 監修・コメント: 佐藤 温)
Reference
1) Peeters M, et al. Proceedings of the 101st Annual Meeting of American Association for Cancer Research.; Washington DC, Philadelphia(PA): AACR; 2010. abstract LB-174
2) Peeters M, et al.Proceedings of the 12th World Congress on Gastrointestinal Cancer.; Barcelona, Spain: WGIC; 2010. abstract PD-0014
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