Abstract #4000-4002

分子マーカーによる個別化術後補助化学療法

このセッションの焦点は、Stage II/III大腸癌患者の個別化治療である。最初に、 David J. Kerr 氏(University of Oxford, Oxford, UK)が、Stage II大腸癌患者の再発を予測するために、バイオマーカーを解析したQUASAR試験について解説した。Sabine Tejpar氏(Katholieke University Leuven, Leuven, Belgium)とArnaud D. Roth氏(Geneva University Hospital, Geneva, Switzerland)は、PETACC 3-EORTC 40993-SAKK 60-00試験に参加したStage II/III大腸癌患者から得た組織標本を用いて、バイオマーカーの治療予測および予後予測おける有用性について検討した結果を発表した。

Abstract #4000

Stage II結腸癌における再発予測のためのRT-PCR検査法による多重遺伝子解析:4つの大規模試験における遺伝子選択と独立した前向き試験QUASAR validation studyの結果

A quantitative multigene RT-PCR assay for prediction of recurrence in Stage II colon cancer: Selection of the genes in four large studies and results of the independent, prospectively designed QUASAR validation study.


David J. Kerr, et al.

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QUASAR validation studyでは、4つの大規模臨床試験(NSABP C-01/C-02、Cleveland Clinic、NSABP C-04、NSABP C-06)のStage II結腸癌患者1,436例における再発予測と5-FU/LVの臨床的有用性を予測するために、RT-PCR法による多重遺伝子解析を行った。その結果、再発予測に関する7つの遺伝子、治療効果予測に関する6つの遺伝子、および5つの参照遺伝子を得た。 この解析の臨床的有用性について検討するため、手術単独群(711例)と手術+5-FU/LV群(725例)の2群に層別化し、Recurrence-free interval(RFI)、DFS、OSについて解析を行ったが、有意差は認められなかった。
手術単独群の一次解析により、腫瘍遺伝子発現から算出された再発予測スコア(RS)が再発リスクを予測し、RSが高いほどリスクが高いことが明らかになった(p=0.004)。多変量解析では、RSが再発リスクを予測可能であることが示され(表1:HR=1.61、p=0.008)、 それは特にT4 Stageで顕著であり、T3 StageかつMMR Proficientでも同様であった。MMR Deficientでは再発リスクそのものが低く、RSによる再発リスクは高まるものの、その差は小さかった。 また、RSはDFS(HR=1.42、p=0.01)とOS(HR=1.33、p=0.041)を予測したが、5-FU/LVの治療効果を予測しないことが示された(p=0.69)。

QUASAR Results: Clinical/Pathological Covariates and Recurrence
QUASAR Results:Recurrence Score, T Stage, and MMR Deficiency are Key Independent Predictors of Recurrence in Stage II Colon Cancer

Abstract #4001

5-FU/LVまたは5-FU/LV+CPT-11で治療したStage II/III結腸癌のMicrosatellite instability(MSI):PETACC 3-EORTC 40993-SAKK 60-00試験

Microsatellite instability (MSI) in Stage II and III colon cancer treated with 5-FU/LV or 5-FU/LV and CPT-11 (PETACC 3-EORTC 40993-SAKK 60-00 trial).


Sabine Tejpar, et al.

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Abstract #4002

結腸癌における分子マーカーのStage特異的予後予測能:PETACC 3-EORTC 40993-SAKK 60-00試験のトランスレーショナル研究の結果

Molecular markers in colon cancer have a stage specific prognostic value. : Results of the translational study on the PETACC 3-EORTC 40993-SAKK 60-00 trial.


Arnaud D. Roth, et al.

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本試験は、2週間ごとのinfusional 5-FU/LV療法または5-FU/LV+CPT-11併用療法を行ったStage II / III結腸癌患者3,278例を比較したものである。一次エンドポイントである5年DFSについては、5-FU/LV群と5-FU/LV+CPT-11群で有意差はみられなかった(p=0.106)。本解析は、1,564例の病理標本を用いて実施された。

Abstract #4001

Tejpar氏が発表した研究は、Stage II(395例)およびStage III(859例)患者におけるMicrosatellite instability(MSI)の高発生率(MSI-H)とその予後予測および治療予測能に関するものである。発生率が30%以上をMSI-H、10〜20%をMSI-L、すべてのマーカーが陰性の場合をMSSとして分類した。
その結果、MSI-HはStage IIの22%、Stage IIIの12%に認められた(p<0.0001)。また、MSI-Hは、リンパ節転移が少ない症例(N1-2 vs. N0:p<0.0001)、T Stageが高い症例(T1/2 vs. T3 vs. T4;p=0.037)に多く認められた。また、BRAF変異型では、MSI-Hが24%であるのに対し、MSSは 5%であり(p<0.0001)、TS intenseではMSI-Hが67%、MSS が26%であった(p<0.0001)。
MSI-HとStage II/IIIを組み合わせた場合、RFSおよびOS予後予測能を高めるが、Stage 毎の解析では、Stage IIでは予測能が高まり(RFS: p=0.0044、OS: p=0.011)、Stage IIIでは低下した(RFS :p=0.06、OS:p=0.12)。StageおよびMSI-Hなどの回帰分析の結果、RFS(p=0.058)とOS(p=0.051)は相関傾向が認められたが、有意ではなかった。治療別の解析結果は、下表に示す。以上のことから、特にStage II結腸癌において、MSIはRFSと OSの強い予後予測因子であることが示された。また、5-FU/LV療法を行った患者でも、Stage II/III およびStage IIの患者においてそれぞれRFSとOSの予後予測効果は認められた。その一方で、既報のデータ(JCO 27: 1814-1821, 2009)とは違って、MSI-Hによる5-FU/LV にCPT-11を付加する効果予測が認められなかった。

Result: Prognostic impact MSI ? Univariate

Abstract #4002

一方、Roth氏はStage II/III結腸癌における分子マーカーの発現率を比較し、それらの予後予測因子としての有用性を検討した。その結果、分子マーカーの変化はp53の過剰発現、SMAD4欠失、TS、hTERT、MSI、18qLOH、KRAS、BRAFなどで観察された(表1)。Stage IIとIIIで有意が認められたマーカーは、MSI-H(22% vs. 12%:p<0.0001)、TS(43% vs. 29%:p<0.0001)、p53(30% vs. 37%:p=0.01)、SMAD4(18% vs. 23%:p=0.03)、18qLOH(63% vs. 70%:p=0.04)であった。
Stage IIおよびStage IIIにおけるマーカーの予後予測能の単変量解析では、Stage IIにおけるMSI(p=0.04)と18qLOH(p=0.05)が有意であった(表2)。多変量解析では、Stage IIにおけるT Stage(p=0.0001)とMSI(p=0.027)、Stage IIIにおけるT Stage(p=0.0006)、N Stage(p<0.0001)、p53(p=0.015)、SMAD4(p=0.0002)が独立した有意な予後予測因子であることが示された(表3)。
以上のことから、Stage II/ III結腸癌では分子マーカーの発現頻度が異なり、Stageによっても予後予測能も異なることが示された。

Biomarker alteration observed
Prognostic Value   Univariate analysis
Prognostic Value(RFS)   Multivariate Analysis in whole population
コメント

Colorectal cancerのoral sessionには、術後補助化学療法におけるpredictive markerならびにprognostic markerに関する3演題が取り上げられていた。術後補助化学療法において、治療効果および予後予測因子の研究は盛んにされてはいるが、臨床導入はほとんどされていない。個別化治療への期待が高まるなか、補助化学療法が不必要な患者や、5-FU/LVでは治療効果が十分ではない患者への付加すべき薬剤(CPT-11、 L-OHP、分子標的治療薬、etc)が明らかになれば、臨床的意義は大きなものがある。
今回の報告でも、以前から注目されているmicrosatellite instability (MSI)をはじめ、その他markerにおいても示唆に富むデータがいくつか示されたが、solidなデータとは言い難い。これらbiomarker研究はわが国が得意とするところであり、臨床試験システムの整備が進んだ今、総力を挙げて取り組む重要なテーマである。

(コメント・監修:瀧内 比呂也)