口演発表の一般演題より 4−多施設共同臨床試験のマネージメントの現状
O-118は日米における臨床試験における現場でのシステムの違いについての口演であった。

O-118:
日米癌専門病院における
多施設共同臨床研究におけるマネージメントの比較検討

岩崎善毅ら(東京都立駒込病院 外科、スローン・ケタリング記念がんセンター)
都立駒込病院は、東京都文京区にある、癌と感染症の高度専門医療センターで、病床数801床、厚生労働省の指定した新GCPモデル病院2施設のうちの一つで、1998年より治験事務局が設置されている。今回駒込病院の胃癌における多施設共同臨床試験のマネージメントの現状を検討すると共に、北米の癌専門病院であるMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)の共同臨床研究の実際と比較した。
駒込病院での、1999年から2001年の初発胃癌501例を対象とし、癌告知とインフォームド・コンセントの実態、臨床試験への参加状況を検討した。治療説明における時間、告知の状況、参加人数などを記録しておき、これらを解析した。また、同時期のMSKCCにおける初発胃癌362切除例を対象として、比較検討した。
駒込病院では、96%に告知が行なわれていた。残りの4%にあたる19例のうち17例は家族の強い希望により、2例は老人性痴呆を理由として告知を行なわなかった。告知時期は42%が入院前、43%が入院後、15%が手術説明時であった。演者曰く「入院後から手術直前にバタバタと告知している」状況であった。病状・治療説明時の立会い人数は、医師:平均1.8人(1〜4人、中央値2人)、看護師:平均0.2人であった。逆に患者家族の方は熱心で、患者本人以外の家族立会いは平均3.2人(1〜13人、中央値3人)であった。
病状・治療説明に要した時間は、全症例では78分(30〜160分、中央値75分)であったが、臨床試験の説明例と非説明例とで分けると、臨床試験の説明例は98分(45〜160分、中央値100分)、臨床試験の非説明例73分(30〜150分、中央値70分)であり、臨床試験説明例の方が有意に長かった(p<0.05)。病状・治療説明を行なった時間帯は、勤務時間内に開始し勤務時間内に終了したものが37%、勤務時間内に開始し勤務時間外に終了したものが24%、勤務時間外に行なったものが39%であった。

一方、MSKCCは、1884年にニューヨーク州立病院を基礎として設立された合衆国初の癌センター病院である。ニューヨーク州マンハッタン東のメディカル・センターに位置し、病床数は425床と、駒込病院の約半分であるが、Clinical Trial Serviceという治験専門の事務局がある。1999年〜2001年の駒込病院の治験事務局とMSKCCのClinical Trial Serviceを比較してみた。駒込病院の治験事務局のスタッフ数が6人、全臨床試験数35、胃癌の臨床試験数が5であったのに対し、Clinical Trial Serviceのスタッフ数は45人と多く、全臨床試験数 約400、胃癌の臨床試験数は15であった。また、治験事務局の症例数が501、適格例101例、うち臨床試験への参加同意が得られたのは86例(85%)であったのに対し、MSKCCでは、症例数362、適格例205例、うち臨床試験への参加同意が得られたのは201例(98%)であった。MSKCCでは、ほとんどが手術当日に入院してくるということもあるが、外来診療時間内に担当医師、CRC、research nurse (RN) 同席のもとで、患者本人・家族に説明を行なっている。また、Cancer Information Serviceが、常時患者対応にあたり、医療者とのスムーズなコミュニケーションを可能にしている。それとあわせ、インターネット、Physician Data Query(PDQ)などを活用し、臨床試験に対する意識の向上をはかる取り組みも行なっている。MSKCCでは、臨床試験においての医師、CRC、RNなどの分業がはっきりなされていた。また、それ以外にも、一般的に米国の患者さんは臨床試験に関する意識が強く、「この病院に行けば臨床試験を受けられ、医療費がタダになる」といった情報交換も活発なようである。

駒込病院における臨床試験の対象例では、告知および治療についての説明が長時間を要し、かつ勤務時間外に及ぶことが多く、医師の負担が大きいと言える。また本邦における臨床試験の発展のためには、社会的な啓蒙とCRCなどの専門スタッフの充実が必要である。

 
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