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第6回 胃癌外科手術の変遷

7. 再建方法

7.1 幽門側胃切除術

 再建方法の違いによる無作為化比較試験や、術後QOL評価が報告されているが、あまり明確な結果は出ていない。いずれの再建方法も長所と短所があり、患者の状態や術者判断により再建方法が選択されている。

7.1.1 Billroth I法

 Billroth I法は、最初の胃切除術で行われた残胃と十二指腸を吻合する再建方法である。日本ではこの再建方法を第一選択とする施設が多い。食物の流れが生理的である点と、術後胆道系にトラブルがあった場合に内視鏡処置としてendoscopic retrograde cholangiopancreatography (ERCP) を施行しやすい点が長所である。一方、縫合不全の危険性と縫合不全を生じた場合に重篤になりやすい点、十二指腸液の逆流による食道炎や残胃炎の頻度がやや高い点が短所として挙げられる。
 従来は手縫い縫合で吻合が行われていたが、手術機器の進歩により、現在は自動吻合器で器械吻合されることが多い。また、腹腔鏡下手術では、自動縫合器を複数本使用した吻合方法で、デルタ吻合や三角吻合といった手技が開発されている。

7.1.2 Billroth II法

 Billroth II法は、Billrothにより1885年に報告された残胃空腸吻合による再建方法である。術中診断で切除不能と判断して胃空腸吻合術を施行したが、その後に切除可能と再判断して幽門側胃切除術を行い、その結果生まれた再建方法である。欧米や韓国で広く行われているが、日本ではあまり行われていない。縫合不全の少ない安全な再建方法だが、十二指腸液の逆流が高頻度のため食道炎や残胃炎の発生頻度が高く、また残胃癌の発生頻度が高いことも問題視されている。
 十二指腸断端を閉鎖し、Treiz靱帯から10〜20cmの空腸を結腸前または結腸後経路で挙上し、残胃と吻合を行う。残胃に対する空腸の流出経路 (輸出脚) の方向により、順蠕動吻合と逆蠕動吻合に分けられるが、どちらも優劣をつけることはできない。なお、特に結腸前経路で空腸を挙上した場合には、輸入脚と輸出脚を吻合するBraun吻合を追加することにより、十二指腸液の胃内流入を軽減することができる。

7.1.3 Roux-en-Y法

 Roux-en-Y法は、スイスのLausanne大学を主宰していたRouxにより1893年に報告された。吻合が2ヵ所 (残胃空腸吻合と空腸空腸吻合) となり手技がやや煩雑だが、縫合不全が少なく安全な方法であり、十二指腸液の逆流が少ないために残胃炎も少ないことが特徴である。そのため、術前に食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎を認める場合には、Billroth I法ではなく、Roux-en-Y法が推奨される。
 一方、術後胆道系にトラブルが生じた場合、内視鏡的処置の施行が困難であるため、他のアプローチでの治療が必要となる。Billroth I法とともに日本で普及している再建方法である。
 十二指腸断端は閉鎖し、Treiz靱帯から15〜20cmの部位で空腸を切離する。空腸を結腸前または結腸後経路で挙上し、残胃空腸吻合を行う。残胃空腸吻合部から30〜35cmの部位で空腸空腸吻合を行い、2つの小腸間膜の間隙は閉鎖する。また、近年、挙上空腸と結腸間膜の間隙に小腸がはまり込む、Petersenの内ヘルニアが多数報告されており、同部位も閉鎖することが重要である。

7.2 胃全摘術
7.2.1 Roux-en-Y法

 簡便で安全性の高いRoux-en-Y法は、胃全摘術後の再建で最も広く行われている。幽門側胃切除の時と同様、この再建法では、術後の内視鏡処置が困難な点が短所となる。
 十二指腸断端は閉鎖し、Treiz靱帯から20cm程の部位で空腸を切離する。結腸前または結腸後で遠位側空腸を挙上し、食道空腸吻合は端側吻合で行う。以前は手縫いで吻合をしていたが、最近は自動吻合器を用いた器械吻合がほとんどである。挙上空腸の断端は閉鎖するが、盲端が長すぎると食物が停滞する原因になるため、盲端の長さは2cm程度となるようにする。続いて、挙上空腸の長さは、逆流性食道炎の発生を防止するために40cm以上とし、空腸空腸吻合を行う。2つの小腸間膜の間隙および挙上空腸と結腸間膜の間隙は、内ヘルニア防止のために閉鎖する。

7.2.2 空腸間置法

 空腸間置法は、食道と十二指腸の間に空腸を置いて吻合をする再建方法である。食物の流れは生理的になるが、手技は煩雑で、間置空腸が長すぎると通過障害をきたし、短すぎると十二指腸液の逆流につながる。Roux-en-Y法と比較して、空腸間置法が優れているという結論は得られていない。

7.2.3 Double tract法

 基本的な再建の形はRoux-en-Y法と同様であるが、Double tract法では、十二指腸断端は閉鎖せず、挙上空腸の側面へと側端吻合する。吻合が1つ追加となるが、食物や十二指腸液が空腸十二指腸吻合部を通過することで、より生理的な食物の流れを確保できると考えられている。また、術後の胆道系トラブルに対して、内視鏡処置を施行することが可能である。一方、短所としては、空腸間置法と同様に、挙上空腸に食物が停滞する通過障害や、十二指腸液の逆流がある。Roux-en-Y法よりも優れているという結論は得られていない。

7.3 噴門側胃切除術
7.3.1 食道残胃吻合法

 食道残胃吻合法は、Billrothによる最初の噴門側胃切除術で行われた再建方法である。残胃を十分残せる時に、この再建方法を選択することが多い。食道と残胃を吻合する簡便な再建であるが、逆流性食道炎の防止をするための工夫を追加する必要がある。4.2.1で述べたように、噴門側胃切除術では噴門機能を喪失するため、再建時にこの噴門機能を補うような工夫を行う。
 残胃前壁に自動吻合器を用いた食道残胃吻合を行う際、吻合位置は前壁中央として、残胃大弯側に穹隆部のようなスペースを確保するようにする。残胃の貯留能を確保して逆流を減らすのが狙いである。さらに、残胃断端の前壁側を食道壁の左右につり上げて固定することにより、噴門形成とHis角形成を行う。ただし、逆流防止のためには次に示す空腸間置法の方が有用である。

7.3.2 空腸間置法

 空腸間置法は、空腸を挙上させて食道と残胃の間で吻合を行う再建方法である。少し煩雑な再建方法であるが、逆流性食道炎の防止に有用である。また、残胃が小さい時や、食道胃接合部癌で吻合部が縦隔に近くなる時には、吻合部に過度な緊張がかからないようにこの再建方法を選択することが多い。ただし、間置する空腸が長すぎると、通過障害の原因となり、また内視鏡による残胃観察が困難となる場合があるため、注意が必要である。間置空腸の長さは8〜10cm程度が適当と考えられている。

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