私が勤務している癌研有明病院は、がん専門病院として高水準の治療を患者さんに提供することをモットーとしている。標準的治療の徹底、領域単位のセンター制、外来主体の化学療法、Cancer Boardによる情報共有と検討など、その運営スタイルは「癌研方式」とも呼ばれ、研修を開催したり、講演会などでお話しさせていただく機会も少なくない。我々は「癌研方式」が広まり、日本のどんな地区でも一定以上の治療が提供できること、その結果として「がん難民」が一人でも少なくなることを期待している。
 私は講演の際には、いつも院内に存在する、ある「墓場」の話をさせていただく。

 標準的治療を行うことは、患者さんだけでなく、医療従事者にとってもメリットが大きい。私はまず、「院内で実施されているレジメンを確認し、整理すること」を勧めている。多くの病院では、これまでに様々なレジメンが実施されてきたが、それぞれの施行頻度を冷静に確認してみると、実はその大半が施行されていないことに愕然とすることであろう。登録制度がない病院もまだあり、抗がん剤の事故につながっている。
 かくいう癌研も、8年前までは同じような状況であった。2000年には登録レジメン数は460あったが、実際に施行されているレジメンは150、わずか30%しかなかった。我々はこの施行されていないレジメンを登録から抹消し、「墓場」へ“埋葬”した。まさに「レジメンの墓場」である。

 施行されていないレジメンがあろうと、少なくとも患者様には影響はない?
……果たしてそうであろうか?

  施行頻度に関わらず、薬剤師はレジメンごとの調整法、有害事象、配合変化などを理解しておかなければならない。「施行頻度が低いから調整を間違えました」というわけにはいかないのだ。看護師も同様だ。しかし、それらは非常に困難なことであり、重要なレジメンへの注意低下や、インシデント/アクシデントにつながることは間違いない。
 では、医師は……数年間施行されていないレジメンを使用する機会は、果たしてどれほどあるのだろうか?

 「レジメンの墓場」を作ると、より重要なレジメンに関して関係者各位の知識が深まり、各自の業務の質の向上や改善につながる。特に外来化学療法では、限られた時間のなかで、スタッフがそれぞれの観点から患者さんをケアし、協力して安全に化学療法を施行する必要があり、レジメンを限定することが、外来化学療法室の運営にも治療成績にも大きな影響を与える。
 レジメン整理を行った後、我々の施設では、大腸がんの治療は4種類となった。例えば、1年間に80の新たなレジメンができたとしても、そのうちの60は古くなって使用しなくなる。もちろん、数を減らせばいいというものではない。その効果が科学的に立証されているのか、つまりエビデンスがあるレジメンなのかを、院内のしかるべき組織で検討されていることが重要なのである。きちんと検討されたからこそ、役目を終えたレジメンはゆっくりと墓場で眠ることができる。読者諸氏には、墓場に眠った古いレジメンを引きずり出して使用しないよう、お願いする次第である。



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