明けましておめでとうございます。
 皆様お健やかにご越年のこととお慶び申し上げます。
 新年にあたり、皆々様のご多幸とご健勝を心よりお祈り申し上げます。

 近年のがん薬物療法は瞠目すべき進歩を遂げており、私が内科医としてスタートを切った約30年前とは、正に隔世の感があります。このように来し方を顧みて、新年にあたり感じるところを少し綴りたいと思います。

有用な治療法の開発
 新治療法、新薬の臨床導入はひとえに臨床研究、治験によります。癌種、進行度(病期)、前治療、治験の相(T、U、Vなど)などにもよりますが、可能な限り臨床研究、治験の方向性は尊重、優先されるべきでしょう。「真の標準治療は臨床研究である」というのは多分言い過ぎかもしれませんが、未だ発展途上の癌治療分野では深く認識されなければなりません。このフレーズは余りに刺激的で、専門家でも誤解を招くかもしれません。しかし、現行の「いわゆる標準治療」を上回る可能性のあるものは次期治療法ですから、この意図、心意気を「真の標準治療は臨床研究である」と表現できるでしょう。
 また、こうした状況を適切なメッセージで、国民に広く正しく伝える必要があります。諸学会が中心となって、関係諸方面にも働きかけるべきでしょう。日本人は新しもの好きですが、ことこうした面では、国民の意識は決して高くないと思われます。臨床研究、治験が十分に機能しない限りは、とどのつまり国民の健康は守られません。
 癌治療に限らず、治療法の進歩・発展の経緯や背景は裏話的にごく一部で語られてきただけで、社会システムとしての治験や臨床研究の重要性が十分に語られることはなかったと思います。良い薬や治療法は概してそのインパクトが強すぎるゆえに、たちまち既成事実化されがちです。その陰にあった患者、医療従事者の苦労や努力の経緯が顧みられることは少なかったのではないでしょうか。健康向上のために、まずは現状認識が大切ですが、改善事項は行政・医療サイドの話ばかりで、患者は何をすべきかの視点は欠けていました。今こそこうした啓蒙が必要でしょう。
 一方、患者の試験参加意識が高まったところで、それらの患者さんを受け入れる十分な経験と技量を持った医療機関がどれほどあるのか、といった意見も出てくると思われます。確かに、たった今はそうした理想的な医療体制にはありません。しかし、上記のような現状を改めて認識することで、行政・医療サイドは何をすべきか、患者サイドは何をすべきかをより明確にして共通のゴールを設定することができれば、少しずつ現状が改善される可能性が期待されるでしょう。

サルベージ療法の開発
 1次治療、2次治療などのいわゆる標準治療の効果が消失すると、「もう治療法はありません。あとは他院での緩和治療を考えて下さい」というやりとりが最近増えてきたようです。これでは患者はもちろんのこと、その医師も不幸です。本当は、その後のサルベージ療法を考えるのが主治医としてはとても興味のあることなのですが、この一番やりがいのあるところを放棄してしまう医師が増えていることは誠に残念です。患者さんはPSも良好で、これで「緩和治療」と言われても、別に癌性疼痛があるわけではなし、座業程度は十分出来るし、「どうしましょう? もっと何か治療法はないものか?」ということになります。本当の名医とは、3ヵ月の余命を4ヶ月に延ばせる医師のことを言うのかもしれません(もちろん、余分な副作用なしに)。何を最重要視するか、それは価値観により異なりますが、「治癒」を最終目標とする考え方ならば、次善のゴールは「生存期間の延長」や「症状緩和」でしょう。
 このように、標準治療の後療法としてのサルベージ療法の開発は焦眉の急ですが、こうした対象症例の選択、リクルートは困難でしょうし、多施設共同研究を計画するのはさらに大変でしょう。しかし、ニーズは確実にあります。サルベージ療法のsurrogate markerやbiomarkerをはじめとして、何とか治療効果や緩和効果の予測因子などを探索し、生存延長を目指すパイロット研究を計画することで、このようなニーズに、科学的にも、人情的にも対応可能ではないでしょうか。恩師・阿部正和先生は、「医はサイエンスによって支えられたアートである」と言われました。がん薬物療法分野でも進歩があったがゆえに、今こそアートがより求められているように感じます。

 読者諸兄の益々のご活躍とご発展をお祈り申し上げます。



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