アメリカ留学から帰国して | 高橋 孝夫先生


  私は大学卒業後岐阜大学第2外科(現腫瘍外科)に入局し、一般消化器外科を中心に研修診療に従事した後、癌治療を専門にしたいと考え、愛知県がんセンター中央病院消化器外科で2年間レジデントとして外科手術手技を修行しました。その後、癌の発生は癌遺伝子、癌抑制遺伝子によると知り、2年間愛知県がんセンター研究所分子腫瘍学部 高橋 隆先生に師事し、癌関連遺伝子の研究を行いました。
  そのころから更に、アメリカでは癌に対するどのような研究、臨床を行っているのか勉強したいと強く思うようになり、愛知県がんセンター研究所でご指導いただいた高橋 隆先生(現 名古屋大学教授)の推薦をいただき、岐阜大学第2外科教授 佐治重豊先生(現 名誉教授)の御配慮にてUniversity of Texas Southwestern Medical Center, Hamon Center for Therapeutic Oncology ResearchのAdi F. Gazdar先生の研究室に2002年7月から2004年9月まで留学させていただきました。
  肺癌研究が中心の研究室でしたが、私は大腸癌に興味があったため、大腸癌を含め消化器癌について研究を行い、特にDNA Promoter Methylationの研究を行い、いろいろな癌腫のmethylation profileを作成しました。臨床面では消化器に関する臨床のカンファレンスに参加し、腫瘍内科医、消化器外科医とdiscussionする機会がありました。大腸癌肝転移症例を含め再発症例に対する治療方針についてはまずFOLFOXによる抗癌剤治療を行い、FOLFIRI治療、また分子標的薬であるVEGF antibody(bevacizumab)やEGFR antibody (cetuximab)などを組み合わせることにより、2次治療、3次治療まで治療方法が用意されていることを知りました。
  今から4年以上前のことですがその当時は恥ずかしながら“FOLFOX”すら知らず、これらの討論を理解できませんでした。聞き慣れない専門用語に、自分の英語力がないせいかと耳を疑ったものです。またVEGF antibody (bevacizumab) 、EGFR antibody (cetuximab)を開発し、実際使用していることを聞き、びっくりしたことを覚えています。基礎研究所ともタイアップし、実際にVEGF antibody、EGFR antibody に関してはVEGF、EGFRについて発現など遺伝子解析を行い、どのような患者さんに効果がでるのか調査されているようでした。
  このようにアメリカ留学中は研究面、臨床面でたいへん刺激的な環境で過ごすことができ、自分にとってはたいへん有意義でありました。日本とアメリカでは用いる抗癌剤がこれほどまでに異なるのかと知り、もっと勉強をしなければと痛感しました。
  その後日本に帰国し、岐阜大学腫瘍外科で下部消化管を担当することとなりました。日本でもFOLFOXが使用可能となり、私は欧米で良好な結果がでており、留学中に学んだ抗癌剤であるFOLFOX、FOLFIRIを早速使用してきました。現在はFOLFOX、FOLFIRIの使用症例は65例となりましたが、治療効果に関してはかなり良い印象です。現在進行再発大腸癌の患者さんにこの2種類の治療方法を使用してもやむをえずPDとなってしまって次にthird lineとして使用する抗癌剤がなかなかない現状で、アメリカでは当たり前に使用していた分子標的薬も早く使用できるようになればと切望します。
  私のアメリカ留学期間は2年3ヵ月でしたが、その間に、アメリカでは研究所に資金が多くあり、いろいろな面においてすすんでいることを実感しました。これからもアメリカを常に意識して、日本でもよりよい癌治療ができるよう努力していきたいと考えます。




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