FAPは大腸に通常100個以上のポリープ(腺腫)が発生する常染色体優性遺伝疾患という定義が用いられてきたが(古典的FAP)、その後、腺腫の数が少ないいわゆる不全型FAP(AFAP:attenuated
FAP)、さらに最近では腺腫の数が少なく劣性遺伝形式をとる多発性大腸腺腫(multiple colorectal adenomas)の存在が明らかになった。したがって、現在のところ、常染色体優性ないし劣性遺伝形式をとり、大腸にポリープを多発する疾患群という定義が適当であろう。
古典的FAPにおける大腸腺腫は10歳前後から発生し始め、35歳までには95%の症例で腺腫を認める(7〜36歳、平均16歳)。この大腸腺腫を発生母地として、平均39歳で大腸癌が発生する。大腸癌は21歳までに約7%、45歳までに87%、50歳までに93%の症例で認められる。一方、AFAPにおける腺腫の数は平均30個で、腺腫と癌の平均発症年齢はそれぞれ36歳、56歳と古典的FAPに比べ遅いという特徴がある。
大腸外病変としては、デスモイドと胃・十二指腸病変が重要である。デスモイドは大腸切除後の約20%に発生し、病理学的には良性だが、発生部位によっては周囲臓器への浸潤により切除不能となる事もある。胃ポリープは噴門部、体部に好発する過誤腫性ポリープが約50%の症例に見られるが悪性化の報告はない。一方、幽門部に好発する腺腫は約10%の症例に見られるが、悪性化の可能性があり、特に日本人では注意が必要である。十二指腸病変については、十二指腸腺腫が50〜90%、乳頭部腺腫が約50%の症例に見られ、約10%では乳頭部癌が発生すると言われている。下顎、頭部の骨腫、過剰歯などの歯牙異常、先天性網膜色素上皮肥大(CHRPE:congenital
hypertrophy of the retinal pigment epithelium)は、ポリープ発症前より認められることがあり、スクリーニング項目として、あるいは歯科、眼科医師によるFAP症例の拾い上げの契機として重要な意味を持つ。また、FAP
に合併する甲状腺癌はcribriform morular variantという特徴的な組織像を呈する。その他、髄芽腫、肝芽腫などが知られている。
家族歴のあるFAP患者の臨床的診断は比較的容易である。しかし、FAPの約25%は家族歴をもたない新鮮例であり、これらの症例では下痢、腹痛、血便などの一般的な消化器症状や検診での便潜血陽性を契機に受診することが多く、早期診断は困難である場合が多い。新鮮例の場合、上述した大腸外病変がFAP
発見の契機となることがあり、他科診療科の先生方に周知していただけることを期待したい。
FAPの診療に際しては家族性腫瘍カウンセリングが必須である。その他、診療に際して配慮すべき事項の詳細については家族性腫瘍研究会のwebページ(http://jsft.bcasj.or.jp/)を参照していただきたい。
FAPの遺伝子診断は、臨床的診断のついたFAP患者のAPC遺伝子変異が検出された場合に、その血族について発端者と同様の変異の有無を確認するという方法で行われる。遺伝子診断の意義は、FAPの早期診断、早期治療が可能になるということは勿論であるが、最近の遺伝子型と表現型の関連性に関する研究から、遺伝子型によって治療法を選択したり、大腸切除後に特に注意して観察すべき大腸外病変を指摘できる可能性がある(表1)。
FAPの予防的大腸切除術には、結腸全摘回腸直腸吻合術(IRA:ileo- rectal anastomosis)、大腸全摘+回腸肛門吻合術(IAA:ileo-anal
anastomosis)、大腸全摘+回腸肛門管吻合術(IACA:ileo-anal canal anastomosis)がある。手術施行時期や術式の選択に際しては、腺腫の数、密度、大きさ、大腸癌の有無、直腸病変の有無および程度、遺伝子型を参考に、十分なカウンセリングのもと、本人の意志を最大限に尊重している。大部分の古典的FAPはAPC遺伝子codon158-1249に変異があり、これらの症例にはIACAが適当な術式と思われる。codon1250-1464に変異があり密生型の表現型をとるものに対しては完全粘膜抜去によるIAAが薦められる。codon157より5'側およびcodon1465より3'側に変異のある場合はAFAPの表現型をとることが多く、これらの症例には腹腔鏡下IRAをひとつのオプションとして考慮してもいいと考えている。 |