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直腸癌の直腸間膜への浸潤の臨床的重要性:日本における多施設研究の結果

Clinical significance of the mesorectal extension of rectal cancer: a Japanese multi-institutional study.
Shirouzu K, Akagi Y, Fujita S, Ueno H, Takii Y, Komori K, Ito M, Sugihara K; Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum (JSCCR) on Clinical Significance of the Mesorectal Extension of Rectal Cancer.
Ann Surg. 2011; 253 (4) : 704-710.

背景大腸癌におけるTNM分類は再発率や生存率など予後と顕著な相関を示すことから、術後の治療方針を決定するうえで重要な役割を果たしている。こうしたなか、直腸癌における直腸間膜の切除範囲に関する数多くの研究によって、腫瘍の直腸間膜への浸潤距離(distance of the mesorectal extension:DME)が予後に影響を及ぼすことが示唆されている。しかしながら、T3直腸癌において予後を有意に予測するDMEは研究ごとに異なり、また、こうした研究の多くが単施設における少数例での検討で統計学的な検出力は不十分と考えられるため、明確な結論は得られていない。ただその一方で、ERCRC(Erlangen Registry for Colo-Rectal Carcinomas)およびSGCRC(German prospective multicenter study of the Study Group Colo-Rectal Carcinoma)といった大規模多施設研究から、DME≦5mmの患者では有意に良好な予後が得られると報告されている。
 そこで今回、TNM分類における腫瘍のDMEを用いた細分類の重要性を日本人の直腸癌患者において明らかにするため、JSCCR(Study Group of the Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum)の大規模多施設研究データを用いてレトロスペクティブに検討した。
対象と方法国内28施設において術前の放射線療法および化学療法が施行されておらず、治癒切除が施行された直腸癌患者1,091例のうち、Stage IIa(T3N0)患者463例を対象とした。なお、観察期間中央値は86ヵ月(範囲1〜166ヵ月)で、患者の89.2%は3年以上、81.9%は5年以上にわたり経過が観察された。
 DMEはHE染色標本を用い、筋層の外側辺縁が明瞭な場合は外側辺縁から浸潤最深部までの距離を求め、筋層の外側辺縁が過剰な炎症反応などによって破壊され不明瞭な場合は破壊部の間で直線を引いて外側辺縁の位置を定め、浸潤最深部までの距離を求めた。
 再発を予測するDMEのカットオフ値、生存を予測する因子などの評価にはROC(receiver operating characteristic)曲線解析や多変量Cox回帰分析を用いた。また、Kaplan-Meier法を用いて生存率を求めた。
結果DMEの平均値は4.2±4.2mm、中央値は2.9mm(範囲0.1〜30mm)であった。
なお、術後再発は89例(19.2%)で認められ、うち25例(5.4%)は局所再発のみ、49例(10.6%)は遠隔再発のみ、残り15例はその他再発(腹膜播種、腹腔内、大動脈周囲、鎖骨下、縦隔および鼠径部リンパ節転移)であった。
 術後再発を予測するDMEのカットオフ値を検討したところ、ROC曲線解析より4.2mmが妥当であることが示され、多変量Cox回帰分析より5年無再発生存(RFS)に最大の影響を及ぼす最適のカットオフ値は4mmであることが示された(ハザード比[HR] 2.26[95%信頼区間(CI) 1.465〜3.492]、p=0.00023)。
 これに従い患者をDME≦4mmと>4mmに層別すると、DME>4mmは予後不良を予測する有意に独立した因子であることが確認された(HR 1.97[95%CI 1.254〜3.091]、p=0.00323)。また、遠隔転移数についてDME>4mmは≦4mmと比較し有意に多かったが(オッズ比 2.61[95%CI 1.430〜4.761]、p=0.00177)、局所再発については本カットオフ値で層別化した患者間に有意差は認められなかった(p=0.09829)。
 DME≦4mmおよび>4mmの患者における5年RFS率はそれぞれ86.6%および71.3%となり、DME≦4mmでより良好な予後が得られることが示された(HR 0.44[95%CI 0.286〜0.683]、p=0.00015)。また、5年癌特異的生存率はそれぞれ91.3%および82.2%となり、同様にDME≦4mmでより良好となった(HR 0.52[95%CI 0.325〜0.843]、p=0.00664)。
結論TNM分類におけるカットオフ値4mmとした腫瘍のDMEによる細分類は、Stage IIa(T3N0)直腸癌患者の予後をより的確に予測し、さらに適切な治療方針の決定を導くことが示唆された。ただし、本カットオフ値の再現性と妥当性を証明するためには、プロスペクティブな検証が不可欠である。

監訳者コメント

 筆者らは、日本の大腸癌研究会、JSCCR(Study Group of the Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum)の膨大なデータの中から、T3N0即ちStage IIaの症例を対象に、DMEと予後の関係を詳細に解析している。このデータセットでは、DME 4mm以下と>4mmに分けることによって無再発生存に最大の差、HRをもたらすことを導き出し、また、独立した予後因子であったとしている。筆者らも述べているが、他のデータセットにおける再現性、さらには、前向きな検証により、DMEがT3N0直腸癌の重要な予後因子となり得ると考えられる。

監訳・コメント:済生会福岡総合病院 江見 泰徳(外科・部長)

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